「ガオー!」はウソ?ティラノサウルスの本当の鳴き声に迫る最新科学

映画『ジュラシック・パーク』の象徴的なシーン。
巨大なティラノサウルスが地響きとともに轟かせる「ガオー!」という大音量の咆哮。
あの恐ろしくもカッコいい叫び声は、多くの人にとって恐竜のイメージそのものでしょう。
しかし、もしあの鳴き声が科学的な事実とは異なる「人間の想像」に過ぎなかったとしたら?
近年の古生物学の研究により、恐竜たちが実際にどのような声で鳴き、コミュニケーションをとっていたのかという謎が少しずつ解明されつつあります。
本記事では、化石に残らない「音」の正体を探るアプローチや、日本発の世界初の大発見、そして最新科学が導き出した「恐竜のリアルな鳴き声」について詳しく解説します。
なぜ恐竜の鳴き声は分からないのか?
大前提として、恐竜の「声」を録音したデータは存在しません。
では、なぜ化石から鳴き声を復元できないのでしょうか。
発声器官は「化石に残らない」
声を生み出すための器官(声帯、肺、鳥類の鳴管など)は、すべて筋肉や軟骨などの「柔らかい組織」でできています。
硬い骨や歯とは異なり、これらは死後すぐに腐敗してしまうため、化石として残ることは極めて稀なのです。
発声の仕組みを直接確認できないため、映画の制作者たちはライオンやトラ、ゾウ、ワニなどの様々な動物の鳴き声を合成し、大迫力の「想像上の咆哮」を作り出してきました。
科学者たちの3つのアプローチ
直接的な証拠がない中、科学者たちは以下の間接的な手がかりから太古の音を推測しています。
- 現代に生きる親戚(鳥類とワニ類)との比較研究
- 頭骨や内耳の構造解析(CTスキャンなど)
- 稀に発見される発声器官周辺の化石の分析
親戚が教えてくれる鳴き声のヒント(鳥類とワニ類)
恐竜の声を推測する上で最も重要なヒントを与えてくれるのが、系統樹的に最も近い「鳥類」と「ワニ類」です。
鳥類からのヒント:アヒルのような声?
鳥類は小型獣脚類から進化した直系の子孫です。
鳥は声帯を持たず、気管の奥の「鳴管(めいかん)」を使って鳴きます。
2016年、南極で発見された白亜紀後期の鳥類の祖先に近い恐竜の化石から、世界で初めて鳴管が発見されました。
小型獣脚類や羽毛恐竜の中には、現代の鳥のような鋭い声や、アヒルやガチョウのような「グワッグワッ」というシンプルな声で鳴く種がいた可能性があります。
ワニ類からのヒント:ティラノサウルスは「閉口発声」?
ワニは口を大きく開けて咆哮するのではなく、口を閉じたまま喉の奥から低く唸る「閉口発声」を行います。
体腔を振動させることで、遠くまで響く威圧的な重低音を生み出します。
近年、ティラノサウルスなどの大型肉食恐竜もこの「閉口発声」を行っていたという仮説が注目されています。
口を開けて「ガオー!」と吠えるのではなく、口を閉じたまま体全体を震わせ、「ゴロゴロ…」という地を這うような低く重たい唸り声を発していた可能性があるのです。

口を閉じたまま体全体を震わせ、「ゴロゴロ…」と唸り声を発していた。
骨が語る「音」のメカニズムと聴覚
恐竜自身の化石からも「音」に関する重要な情報が読み取れます。
天然のトロンボーン:パラサウロロフス
白亜紀後期の植物食恐竜パラサウロロフスは、後頭部に長く伸びた巨大な「トサカ」を持っています。
CTスキャンの結果、この内部は空気がUターンして通る複雑な管状構造になっていました。
これはトロンボーンなどの管楽器と同じ理屈で、息を吹き込むことで「低く響き渡るラッパや霧笛のような音」を響かせていたと推測されています。

「低く響き渡るラッパや霧笛のような音」を響かせていた
内耳が暴くティラノサウルスの「聴覚」
動物は「自分たちの種が発する声」を最もよく聞き取れるよう耳が進化しています。
ティラノサウルスの内耳を分析した結果、彼らは高音域よりも「非常に低い周波数の音(低周波音)」を聞き取る能力に著しく長けていました。
これは、彼らが超低周波の唸り声(閉口発声)を発し、空気や地面の振動として感じ取ってコミュニケーションしていたという仮説を裏付けています。
世界初!日本発「恐竜の喉の化石」大発見
これまで発声器官は化石に残らないとされてきましたが、近年、日本の研究チームがその壁を打ち破りました。
鎧竜ピナコサウルスの「喉の骨」
福島県立博物館の吉田純輝学芸員を中心とする研究グループは、2005年にモンゴルで発掘された約8000万年前の鎧竜「ピナコサウルス」の化石から、世界初となる恐竜の「喉の骨(喉頭)」を発見しました。

ピナコサウルス
軟骨成分の多い喉の構造が保存されていた奇跡的な大発見です。
複雑な音声を出せた可能性
分析の結果、ピナコサウルスの喉は開閉など活発に動く構造になっており、現代の鳥類と似た点も見つかりました。
ただシューシューと息を吐くだけではなく、喉の筋肉を器用にコントロールし、鳥類のように「複雑な音声」を発することができた可能性が示されたのです。
具体的な鳴き声の再現には時間がかかりますが、恐竜の音声進化を解明する極めて重要な「第一歩」となりました。
恐竜時代のリアルなサウンドスケープ
最新の研究成果を総合すると、白亜紀の森は映画のように巨大怪獣が吠えまくる世界ではなかったはずです。
小型恐竜
鳥のように鋭い声やアヒルのような声で鳴き交わす。
パラサウロロフス
トサカを共鳴させ、ラッパのような霧笛の音で仲間を呼ぶ。
ティラノサウルス
口を閉じたまま、腹の底に響くような超低周波の威圧的な唸り声(ゴロゴロ音)を発する。
映画の「ガオー!」という咆哮とは違いますが、静かな森の奥から得体の知れない重低音が地響きのように伝わってくるティラノサウルスの方が、はるかに生物的な恐ろしさを感じさせます。
正解が分からないからこそ、化石から論理的に音を導き出す科学のプロセスはロマンに溢れています。
次に恐竜を見るときは、ぜひ「どんな声で鳴いていたのだろう?」と想像してみてください。















