モロス・イントレピドゥス Moros intrepidus
名前の由来
「モロス」はギリシャ神話に登場する「迫り来る破滅の化身」に由来し、「イントレピドゥス」はラテン語で「大胆不敵」を意味する。
科名
ティラノサウルス上科
分類
双弓亜綱、竜盤類、獣脚類
生息地(発見地)
アメリカ
時代
白亜紀後期
全長
約2m
体重
約78kg
食性
肉食
Jurassic
Park / World シリーズ登場恐竜
ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 における活躍
劇中では実物よりもかなり小型の恐竜として設定され、描かれています。
映画の冒頭にあたるプロローグ(先史時代の光景)では、白亜紀の時代においてティラノサウルスらと共存していた様子が描かれています。
特に印象的なのは、眠っているギガノトサウルスの元に寄り添うシーンです。
モロスはまるでワニとナイルチドリの関係のように、ギガノトサウルスの口周りをうろつき、食べかすをついばんだり、歯の掃除らしき行動をとったりしていました。
巨大な捕食者と小さなモロスのユニークな関係性が垣間見える場面です。
それから何千万年も経った現代において、バイオシン社の技術によって、当時と変わらない姿で復活を遂げました。
劇中では、バイオシン社の本部がある「バイオシン・サンクチュアリ」の研究施設内にて飼育されています。
ガラスケースのような飼育スペースで、エサとして与えられたトビネズミを捕食する姿が描かれました。





















解説
モロス・イントレピドゥス。
その名は2019年2月21日、恐竜界に衝撃をもって迎えられました。
アメリカ合衆国ユタ州シーダーマウンテン層から発見されたこの恐竜は、白亜紀後期の北アメリカ大陸に生息していたティラノサウルス上科に属する獣脚類です。
なぜこの恐竜が重要なのか。
それは、北アメリカで発見された中で「最も最古のティラノサウルス上科」の標本であり、同大陸におけるティラノサウルスの歴史を約1500万年も遡る発見だからです。
「迫り来る破滅」という名の由来
「モロス・イントレピドゥス」という学名には、この小さな恐竜が背負った数奇な運命と、その後の壮大な進化の歴史が込められています。
属名「モロス」
ギリシャ神話に登場する「迫り来る破滅の化身」に由来します。
これは、後に彼らの子孫(ティラノサウルス上科)が北アメリカ大陸で支配的な地位を確立し、他の種にとっての「脅威(破滅)」となっていく未来を反映しています。
種小名「イントレピドゥス」
ラテン語で「大胆不敵」を意味します。
モロスに続いて、彼らの系統が大胆に北アメリカ中へ分布・拡散していったという仮説を象徴しています。
発見された化石と10年の軌跡
この重要な発見に至るまでには、古生物学者による長きにわたる努力がありました。
リンゼイ・ザノ氏らによる10年に及ぶ発掘調査の末、2013年に丘の中腹から突き出ている脚の骨が発見されたのが始まりです。
現在、ホロタイプ標本(NCSM 33392)とされているのは以下の部位です。
一見すると「化石が少なくて詳細が分からない有象無象の恐竜」と思われるかもしれません。
しかし、これらわずかな手がかりこそが、アパラチオサウルスやドリプトサウルスよりも基盤的でありながら、ティラノサウルス科へと繋がる重要なミッシングリンクを埋める鍵となっているのです。
小さくとも俊敏なハンター:身体的特徴
発見された個体は6〜7歳と推定されています。
我々が想像する巨大なティラノサウルスとは異なり、当時のモロスは非常に小型でスレンダーな体躯を持っていました。
走行に特化した「アークトメタターサル構造」
その脚の骨は極端に細長く、中足骨の比率は同時期の大型ティラノサウルス上科よりも、むしろオルニトミモサウルス類に近いものでした。
特筆すべきは、第3中足骨が第2中足骨と第4中足骨に挟まれて狭まる「アークトメタターサル構造」を有していたことです。
この構造は走行に非常に適しており、高度な走行能力を持つティラノサウルス上科が、遅くとも後期白亜紀セノマニアンの時代には北アメリカに出現していたことを示しています。
彼らはその俊敏な足と発達した感覚器官を武器に、過酷な世界を生き抜いていました。
巨大な支配者「シアッツ」の影で
モロスが生息していた環境は、決して彼らにとって楽園ではありませんでした。
当時の生態系の頂点に君臨していたのは、アロサウルス上科から派生した巨大な肉食恐竜「シアッツ・ミーケロルム」たちでした。
当時のモロスは、これら頂点捕食者のおこぼれを狙って生きながらえる存在に過ぎず、極端な言い方をすれば、より小型のデイノニクスにすら鼻で笑われるような立場だったかもしれません。
ザノ氏らによる2019年の系統解析では、モロスはシオングアンロンやティムルレンギアといったアジアの分類群の近くに配置され、基盤的なパンティラノサウルス類とされました。
これは、モロスがアジアから北アメリカへ移動した生物相の一つであり、白亜紀前期末(アルビアン)までに北米侵入を果たしたことを示唆しています。
未来の「暴君」への架け橋
適切な地形や気候への変化、そして競合であるアロサウルス上科が一掃されるまで、彼らが頂点捕食者の座に就くことはできませんでした。
しかし、彼らは決してめげることなく変化を続けました。
やがて時の王者であったシアッツ・ミーケロルムらの末裔を破り、長い時間をかけて生態系の頂点へと登り詰め、我々がよく知るあの強大なティラノサウルスへと進化することができたのです。
現時点ではその全貌は多くの謎に包まれていますが、モロス・イントレピドゥスは「有象無象」などではなく、未来の王座を約束された重要な存在です。
今後の調査と研究に、全恐竜ファンの注目が集まっています。