ニッポノサウルス Nipponosaurus

名前の由来

日本のトカゲ

科名

ハドロサウルス科

分類

双弓亜綱、鳥盤類、鳥脚類

生息地(発見地)

北海道の樺太(現在のロシア領・サハリン)

時代

約8000万年前(白亜紀後期)

全長

約4m

体重

約1トン

食性

植物食

解説

ニッポノサウルスは、白亜紀後期に生息していた鳥脚類(ハドロサウルス科)の恐竜です。
その名に「ニッポン(日本)」と冠されていますが、この恐竜が発掘された場所は現在のロシア・サハリン島、すなわち旧領である樺太(からふと)という、非常に奇妙な経歴をもつ恐竜です。

日本の恐竜研究史における記念すべき第一歩

ニッポノサウルスの化石が発見されたのは1934年(昭和9年)。
当時、日本の領土であった樺太の三井鉱山川上炭鉱施設内にあった病院建設現場でした。
この発見は、日本の古生物学史において非常に重要な意味を持ちます。
なぜなら、ニッポノサウルスこそが、日本人の手によって発掘され、初めて学名がつけられた記念すべき恐竜第一号だからです。

発見と記載

発見された化石は、北海道帝国大学の長尾巧教授によって研究され、1936年に「ニッポノサウルス・サハリネンシス」として論文に記載されます。
これは日本人による初めての恐竜研究論文となりました。

発見された部位

発掘された化石は、頭骨の一部、骨盤、腰椎、後肢など、全身の約4割が得られています。
産出層は海成層だったため、海岸で死亡したか、死後に死体が海に流されたとされています。
1937年には再度同じ地で調査が行われ、手足の化石も発掘されています。

「失われた標本」と80年越しの「再発見」

輝かしいデビューを飾ったニッポノサウルスですが、その後の歴史は困難なものでした。

第二次世界大戦の混乱や、戦後に樺太がソ連領となったこと、そして指導者であった長尾教授の退官などが重なり、ニッポノサウルスの貴重な標本は北海道大学の収蔵庫で長らくの間、詳細不明のまま眠り続けることになりました。
一時は「失われた標本」とまで言われました。

しかし、21世紀に入り、小林快次博士をはじめとする新世代の研究者たちがこの標本を「再発見」。
CTスキャンなどの最新技術を駆使して徹底的に再研究したことで、ニッポノサウルスの真の姿と、その科学的な重要性が、80年以上の時を経て再び脚光を浴びることになったのです。

身体的特徴と分類

ニッポノサウルスは、北アメリカ大陸やユーラシア大陸のアジアなどで広く繁栄したハドロサウルス科(カモノハシ竜)に分類されます。

食性(ハドロサウルス科の共通点)

ハドロサウルス科の多くに見られる共通点として、ニッポノサウルスもカモのような平たいクチバシを持っていました。
その口の中には、おろし金のような細かい歯(デンタルバッテリー)が並んでおり、植物をすり潰して食べるのに向いていたと考えられています。

トサカの特徴

ニッポノサウルスは、頭頂部に中が空洞のトサカがあったとされています。
この特徴から、ハドロサウルス科の中でもランベオサウルス亜科(パラサウロロフスなどが属するグループ)の近縁種である事が分かっています。
化石の特徴からして、ヒパクロサウルスの血族だったのではないかとも推測されています。

サイズをめぐる誤解:本当は小型恐竜ではなかった

ニッポノサウルスの研究は、そこまで爆発的に進んでいるわけではありませんが、近年、そのサイズに関して大きな見直しが行われました。

発見された標本は全長約4m程度であったことから、ニッポノサウルスは長い間、小型の恐竜だと考えられていました。
しかし、2017年の骨の組織を分析した研究により、樺太で発見されたこの化石が、実は子供(まだ成長途中の若い個体・亜成体)のものである可能性が非常に高いことが分かってきました。

もしこの個体が完全に成長すれば、全長7.5m以上に達したと推定されています。

進化学的な重要性:アジアとヨーロッパを繋ぐ

最新の研究は、ニッポノサウルスが持つ地理的な重要性も明らかにしました。

詳細な系統分析の結果、ニッポノサウルスはヨーロッパ(スペイン)のブラシサウルスなどと非常に近縁であることが分かりました。
この事実は、白亜紀後期に、ランベオサウルス科の恐竜たちがアジアとヨーロッパの間を、おそらく当時は陸続きだったベーリング海峡などを通じて広く移動・分散していたことを示す、非常に重要な生物地理学的な証拠となります。

ニッポノサウルスは、その複雑な歴史的背景と、日本の恐竜研究の黎明期を象徴する存在として、今もなお重要な地位を占めている恐竜です。

(復元骨格は、北海道大学総合博物館と国立科学博物館、福井県立恐竜博物館に展示されています。)

ジュラシック・パーク/ジュラシック・ワールド Jurassic
Park / World
シリーズ登場恐竜

  • ジュラシック・ワールド における活躍

    パークのイノベーション・センターに登場します。

    劇中では、同センター内に展示されているホログラム(ホロスコープ)の一つとして、ニッポノサウルスがラインナップに加えられていました。

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