恐竜コラム

【最新研究】トリケラトプスの巨大な「鼻」は脳を冷やすラジエーターだった?体温調節の謎に迫る

【最新研究】トリケラトプスの巨大な「鼻」は脳を冷やすラジエーターだった?体温調節の謎に迫る

恐竜の中でもティラノサウルスと並んで絶大な人気を誇るトリケラトプス
その姿といえば、目の上の長大な「角」と後頭部の「フリル(襟飾り)」が有名ですが、頭部をよく観察すると「鼻」の領域も極端に大きく発達していることに気がつきます。

目の上の「角」と後頭部の「フリル」が有名だが、「鼻」の領域も極端に大きく発達している。

目の上の「角」と後頭部の「フリル」が有名だが、「鼻」の領域も極端に大きく発達している。

長年、この巨大な鼻の役割は古生物学における大きな謎でした。
しかし2026年2月、東京大学を中心とする国内の共同研究チームが、この謎に対する画期的な解答を提示しました。
トリケラトプスの鼻は、巨大な頭部にこもる熱から脳を守る「ラジエーター」として機能していた可能性が高いというのです。

本記事では、化石に残らない「軟組織」を最新手法で復元し、角竜類の驚くべき体温調節メカニズムを解き明かした最新研究について詳しく解説します。

見過ごされてきたトリケラトプスの「鼻」の謎

トリケラトプスに代表される「角竜類」は、進化の過程で極端な特殊化を遂げ、巨大な頭部を持つようになりました。

軟組織の壁と比較研究の困難さ

これまで角竜類の頭部研究は、主に防御や誇示の武器である「角」と「フリル」に焦点が当てられてきました。
一方で、頭骨の前方を占める巨大な「骨鼻孔(こつびこう)」を含む鼻の領域については、解剖学的な理解がほとんど進んでいませんでした。

理由1

角竜類の鼻の構造が独自に特殊化しすぎており、他の恐竜との単純な比較が困難だった。

理由2

鼻の内部にあった神経や血管などの「軟組織」は化石として残らないため、実態の直接確認は不可能とされていた。

CTスキャンが化石に命を吹き込む!軟組織の復元

この難題に挑んだのが、東京大学、国立科学博物館、薩摩川内市甑ミュージアム、我孫子市鳥の博物館、福井県立大学の専門家からなる共同研究チームです。
(研究成果は米国解剖学会の学術誌『The Anatomical Record』2026年2月7日付に掲載)

骨の「痕跡」から論理的に推定

研究チームは、トリケラトプスの口先から鼻にかけての骨(前上顎骨)にCTスキャンを実施しました。
化石の表面からは見えない、骨の内部に空いた細かな管や溝(神経や血管が通っていた痕跡)のネットワークを3次元的に解析したのです。
さらにこのデータを、現生の鳥類やワニ類といった爬虫類の解剖学的データと比較することで、失われた軟組織の存在と配置を論理的に推定するという画期的なアプローチを採用しました。

明らかになった固有のネットワーク

包括的な解析の結果、派生的な(より進化した)角竜類には、他の爬虫類には見られない固有の解剖学的特徴があることが判明しました。

鼻の主要器官の推定

これまで不明瞭だった「鼻腺」や「鼻涙管」の存在と配置の推定に成功。

特異な血管・神経の配置

「眼神経血管束」と呼ばれる神経と血管の束が、巨大な鼻孔の周辺や吻端(鼻先)に向かって優位に分布していることが判明。

複雑なひだ状構造

鼻腔内に「呼吸鼻甲介(こきゅうびこうかい)」と呼ばれる複雑なひだ状の構造を持っていた可能性が示されました。

巨大な頭の弱点「熱」から脳を守るラジエーター機能

なぜ角竜類は、鼻の周辺にこれほど豊かな血管や神経を張り巡らせる必要があったのでしょうか。
その答えは、彼らの「巨大すぎる頭部」のリスクにあります。

脳のオーバーヒートを防ぐ冷却システム

陸上脊椎動物で最大級のサイズを誇るトリケラトプスの頭部は、分厚い骨と強大な筋肉で覆われており、「非常に熱がこもりやすい構造」でした。
脳などの神経組織は温度変化に極めて敏感であり、熱がこもって温度が上がりすぎれば致命的なダメージを負ってしまいます。
そのため、巨大な頭部を適温に保つための強力な冷却システムが不可欠でした。

鼻呼吸による効率的な熱交換

ここで、今回発見された鼻の軟組織が活躍します。
鼻腔内の豊富な血管ネットワークを通じ、呼吸のたびに温かい血液が外気(冷たい空気)と触れ合い、熱のやり取りを行います。
さらに「呼吸鼻甲介」のひだ状構造があれば表面積が飛躍的に増大し、熱交換の効率は劇的に高まります。

つまり、トリケラトプスの巨大な鼻は、車のエンジンを冷やす「ラジエーター」のように機能していたと考えられるのです。
鼻先や鼻腔内に大量の血液を循環させて熱を逃がし、奥にある大切な脳をオーバーヒートから守っていました。

最新研究が描く「よりリアルな恐竜の姿」

今回発表された内容は骨の痕跡などから導き出された「仮説」ですが、知見が不足していた角竜類の吻部について、詳細な解剖学的情報を提供する初めてのケースであり、学術的意義は極めて大きいものです。

「巨大な鼻が脳を冷やすラジエーターだったかもしれない」という事実は、彼らが単なる鈍重な爬虫類ではなく、高度に洗練された体温調節システムを備えた極めて活動的な生物であったことを教えてくれます。
化石に残らない軟組織に光を当てるこうした研究が進むことで、私たちが思い描く恐竜たちの姿は、より鮮明でリアルなものへとアップデートされていくことでしょう。

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