スキピオニクス Scipionyx

名前の由来

スキピオ(古代ローマの将軍などに由来)の爪

分類

双弓亜綱、竜盤類、獣脚類

生息地(発見地)

イタリア

時代

約1億1300万年前(白亜紀前期)

全長

約50cm(成体は推定約2m)

体重

約25〜30kg

食性

肉食

解説

恐竜の化石といえば、通常は「骨」しか残りません。
数千万年という時間の流れで有機物は分解されてしまうからです。
しかし、1981年にイタリアで発見されたある小さな恐竜の化石が、その常識を覆しました。

「スキピオニクス」と呼ばれるこの恐竜は、全長わずか50cm程度。
しかしその体内には、骨だけでなく腸や肝臓、筋肉といった「軟組織」が、まるで解剖図のように奇跡的な状態で保存されていたのです。

イタリアの奇跡「チーロ」:内臓が残った理由

数奇な発見と愛称

1981年、イタリア南部の採石場で、アマチュア収集家ジョヴァンニ・トデスコ氏によって発見されました。
当初は「鳥」だと思われていましたが、17年後の1998年に新種の恐竜として記載されました。
学名の「スキピオニクス」は古代ローマの将軍スキピオなどに由来し、愛称の「チーロ(Ciro)」はナポリ地方の方言で親しまれています。

なぜ内臓が残ったのか?

チーロが発見されたのは、かつて酸素が極端に少ない「低酸素状態」のラグーン(干潟)だった場所です。
この特殊な環境が腐敗を防ぎ、内臓が分解される前に鉱物(リン酸カルシウムや赤鉄鉱)に置き換わることで、恐竜の内部構造がそのまま化石として保存されたのです。

明らかになった内部構造

2011年の詳細な研究により、以下の構造が確認されました。

消化管

胃、十二指腸、直腸までが保存されており、腸が驚くほど短い(消化効率が高い)ことが判明しました。

肝臓

腹部に巨大な肝臓の輪郭があり、赤鉄鉱による赤い色素が残っていました。

その他

筋肉繊維や関節の軟骨、恐竜独自の呼吸システムを示唆する痕跡も見つかっています。

生後数日の赤ちゃんと「最後の晩餐」

卵から出て数日の命

発見された個体は全長約50cm。
腹部に「卵黄嚢(孵化直後の栄養袋)」の痕跡があったことから、生後わずか数日以内の赤ちゃんだったことが分かっています。
成体になれば2mほどに成長するはずでしたが、チーロはその未来を迎えることなく化石となりました。

親の愛を示す食事メニュー

消化管の中からは、死の直前に食べた「最後の晩餐」が見つかりました。

  • 胃・十二指腸: トカゲの足や鱗
  • 腸: 魚の椎骨や皮膚(ニシンやアロワナの仲間)

ヨチヨチ歩きの赤ちゃんが、自力ですばしっこいトカゲや魚を捕らえるのは不可能です。
これは、親恐竜が獲物を捕らえて巣の雛に与えていたこと(給餌行動)の強力な証拠であり、太古の恐竜の親子愛を現代に伝えています。

分類の謎:小型恐竜か?巨人の子供か?

チーロはあまりにも幼いため、その分類は研究者を悩ませ続けています。

コンプソグナトゥス類説

長らく、小型獣脚類であるコンプソグナトゥス科に近いとされてきました。
この場合、成体になっても比較的小型の恐竜です。

大型肉食恐竜の幼体説

しかし2021年、チーロが実は「カルカロドントサウルス科」の幼体である可能性が浮上しました。
もしこれが正しければ、スキピオニクスは小型ハンターではなく、ギガノトサウルスのような「将来、生態系の頂点に立つはずだった巨人の赤ちゃん」ということになります。
分類に関しては現在も議論が続いており、今後の研究が待たれます。

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