テラトフォネウス Teratophoneus
名前の由来
ギリシャ語で「怪物のような殺戮者」を意味する
科名
ティラノサウルス科
分類
双弓亜綱、竜盤類、獣脚類
生息地(発見地)
アメリカ
時代
約7610万~7400万年前(白亜紀後期)
全長
約6m
体重
約667kg
食性
肉食
Jurassic
Park / World シリーズ登場恐竜
ジュラシック・ワールド/炎の王国 における活躍
『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は、現状において本種が登場する唯一の映像作品となっていますが、その扱いは非常に特殊的かつ限定的なものでした。
劇中における生体(正確には死体)としての登場は、イスラ・ヌブラル島の旧送信所(ラジオタワー)の傍らに、腐敗した死骸として転がっているシーンのみです。
画面上では頭部を確認することすらできません。
これ以外での出番は、ロックウッド邸に飾られた化石標本として一瞬映り込むカットが存在するのみです。
その登場時間は非常に短く、Wikiや専門的な解説を偶然目にしない限り、一般の観客が気付くことはほぼ不可能なレベルの演出でした。
なお、テラトフォネウスは、イスラ・ヌブラル島に生息していた恐竜の公式リスト(一覧)には掲載されていない種です。
全く同じ境遇にあるペロロプリテス(こちらも死骸のみの登場)と共に、シリーズに登場した恐竜の中でも特に異彩を放つ、謎めいた存在となっています。





















解説
テラトフォネウスは、白亜紀後期の北米大陸、現在のユタ州にあたる地域に君臨していたティラノサウルス科の獣脚類です。
2011年に命名された比較的新しいこの恐竜は、その衝撃的な学名の意味や、複雑な進化の系統、そして当時の生態系における「怪物」としての立ち位置など、多くの興味深い特徴を持っています。
「怪物のような殺戮者」その名の由来と意味
テラトフォネウスという学名は、非常に強烈な意味を持っています。
正式な学名は「テラトフォネウス・カリーイ」。
「テラトフォネウス」はギリシャ語で「怪物のような殺戮者」を意味し、種小名の「カリーイ」は、カナダを代表する著名な古生物学者フィリップ・カリー氏への献名です。
つまり、全体で「カリー氏の怪物のような殺戮者」という意味になります。
この物々しい名前は、単なるインパクト狙いではありません。
テラトフォネウスが生息していた当時のユタ州カイパロウィッツ累層には、コスモケラトプス、ユタケラトプス、ナストケラトプスといった、多種多様な角竜類(植物食恐竜)が生息していました。
テラトフォネウスは、これら植物食恐竜たちにとって、まさに捕食者として「怪物」のように恐ろしい存在であっただろうという推測から、この名が授けられたのです。
身体的特徴とサイズ:亜成体と成体の違い
現在までに発見されているテラトフォネウスの化石は、頭骨の一部、前肢、脊椎などの部分的なものに限られています。
日本国内の恐竜展などで展示された復元骨格を見たことがある方もいるかもしれませんが、あれは亜成体(大人になる前の個体)の標本に基づいたもので、その全長は約6mほどです。
しかし、成熟した成体であれば、全長は7〜9m程度に達したと推測されています。
全体的な特徴としては、同じティラノサウルス科のアルバートサウルスやダスプレトサウルスに近い形質を持っていたことが判明しています。
がっしりとした頭部や強力な顎、そしてティラノサウルス類特有の身体構造は、彼らが当時の生態系の上位に位置するハンターであったことを如実に物語っています。
完全な全身骨格が見つかっていないため詳細は未だ不明な点も多いですが、発見された部分的な化石からも、後のティラノサウルスへと通じる「王者の血潮」がしっかりと流れていたことがうかがえます。
揺れ動く進化の系譜:ティラノサウルスとの関係は?
テラトフォネウスがティラノサウルス科の進化の中でどの位置に属するのかについては、研究の進展とともに様々な説が浮上しており、古生物学者たちの間でも議論が続いています。
初期の説
当初、アルバートサウルスやダスプレトサウルスに近い特徴を持つことから、ダスプレトサウルスから派生して進化を遂げた種の一つではないかと考えられていました。
2013年の解析
ダスプレトサウルスよりもさらにティラノサウルスに近い位置にいる近縁種だと考えられました。
2016年の解析
評価が一転し、ダスプレトサウルスよりもティラノサウルスとは遠縁であり、むしろアラスカで発見されたナヌークサウルスに近い系統ではないかという説が出されました。
ところが最近になり、同じくニューメキシコ州で発見されたビスタヒエヴェルソルと共に、やはりティラノサウルスにかなり近い近縁種ではないかという説が再び浮上しています。
このように、テラトフォネウスはティラノサウルス科の進化史における重要なピースでありながら、その正確な立ち位置はミステリアスなままです。
今後の研究や新たな化石の発見によって、その系譜がより明確になることが期待されています。
古代ユタ州の支配者として
テラトフォネウスが生きた白亜紀後期のユタ州は、コスモケラトプスやユタケラトプスといったユニークな装飾を持つ角竜たちが闊歩する豊かな土地でした。
彼らにとって、テラトフォネウスは文字通り「怪物」として映ったことでしょう。
発見されている化石は断片的ですが、そこから復元される姿は、ティラノサウルス科特有の力強さと、地域固有の進化を遂げた捕食者の威厳に満ちています。
「怪物のような殺戮者」という衝撃的な名前を持つこの恐竜は、ティラノサウルスが北米大陸の覇者となる少し前の時代、あるいは異なる地域で、生態系の頂点に君臨していた重要な捕食者だったのです。