トリケラトプス Triceratops

名前の由来

三本の角を持つ顔

科名

ケラトプス科

分類

双弓亜綱、鳥盤類、周飾頭類

生息地(発見地)

アメリカ、カナダ

時代

約7000万~6600万年前(白亜紀後期)

全長

約9m

体重

約6〜12トン

食性

植物食

解説

トリケラトプスは、ティラノサウルスステゴサウルスと並んで最も有名な恐竜の一つです。
その名は古代ギリシャ語で「三本の角を持つ顔」を意味し、その名の通り3本の大きな角と、盾のように張り出した頭部のフリルが特徴です。
白亜紀末期に北アメリカに生息し、恐竜が絶滅するまで生き残った最大級の角竜でした。

当時の北アメリカの地層から発掘される恐竜の60%以上がトリケラトプスだったという研究結果もあり、圧倒的な個体数を誇っていました。
最後まで生き残った恐竜の一つであり、ティラノサウルスの主食だった可能性も高いと考えられています。

ティラノサウルスの主食だった可能性も高い

ティラノサウルスの主食だった可能性も高い

圧倒的な強さの秘密:角とフリルの役割

トリケラトプスの強さの象徴といえば、目の上に生えた長さ1mを超える2本の角と、頭部を覆う大きなフリルです。
フリルは頭骨全体の長さの半分を占めるほどの大きさで、その基部には顎を動かす強力な筋肉が付着していた可能性があります。
フリルは他の角竜によくある穴が老齢になるまで開いておらず、角竜随一の強度を誇っていました。

長年、これらの角やフリルは、肉食恐竜から身を守るための武器だと考えられてきました。
実際に、ティラノサウルスに噛まれた痕が治癒したトリケラトプスの化石や、トリケラトプスの角で突かれたような傷跡が残るティラノサウルスの化石も見つかっており、実際に戦いに使用されていたことは確実です。

長大な角を振りかざして闘った

長大な角を振りかざして闘った

その役割については、「首を守るための防具」の他に、「異性を惹きつけるディスプレイ」「身体を大きく見せて威嚇するもの」「縄張り争い」など、複数の説があり、その役割は一つではなかったと考えられています。

しかし、その戦い方については諸説あります。
映画やテレビで描かれるような、角を突き出して突進する戦い方では、衝突の衝撃で首の骨が折れてしまう可能性があるという研究も出されました。
これに対して、「首の筋肉や骨の柔軟性が考慮されていない」「首の可動性は高かった」という反論も強く、突進するのではなく、近距離から突き上げるような攻撃が主だったという説も提唱されています。
角の主な用途は、交尾の際の儀式や、群れのリーダーを決めるための力比べだったという説が有力視されています。
しかし、「そもそも生物が闘争において武器になりそうな身体の部位を使用しないわけがない」という意見も根強く、角で戦った説が否定されたわけではありません。

鈍足でも生き残れた理由

トリケラトプスは、全長約9m、体重6,000〜12,000kgと、がっしりとした体つきで、体の外観はサイに似ていました。
重さ1トン近くにもなる大きな頭なので、ぐっと上に持ち上げることはまず不可能でした。
また、頭の骨には空洞がほとんどなく、首の骨は互いにくっついて一本の短い棒のようになっていたため、首を自由に動かすことはできませんでした。
したがって、丈の高い植物は食べられなかったと考えられています。

頭が重すぎることもあり、推定走力は時速25km前後と、サイのように速く走ることはできませんでした。
そのスピードはティラノサウルスよりも遅かったとされています。
しかし、ティラノサウルス鈍足説を鵜呑みにすれば、むしろトリケラトプスの方が速かったという見方もでき、案外走って逃げていたのかもしれません。

それでも、何百万年も生き残れたのは、その巨大な体と頑丈なフリル、そして強力な角という圧倒的な存在感があったからです。
たとえ走るのが得意でなくても、襲ってくる捕食者に対しては3本の角で立ち向かい、フリルを盾のようにして敵のかみつき攻撃から首を守りました。

ティラノサウルスのようにどう猛な獣脚類とともに、白亜紀の終末まで生き残っていた。

ティラノサウルスのようにどう猛な獣脚類とともに、白亜紀の終末まで生き残っていた。

食性:史上最強の顎を持つ植物食動物?

トリケラトプスの顎は、植物食動物の中で史上最強だったと考えられています。
口の前方には分厚いくちばしが発達しており、くちばしで摘み取った食べ物を、裁断機のような奥歯で細かく切断していました。
歯は、植物を噛むときに自然に研がれてノミのように鋭くなり、擦り減っても新しい歯が出てきました。
トリケラトプスはあらゆる植物を食べることができ、彼らが食べた跡は、まるで巨大な植木ばさみで刈り取ったように見えたとされています。
体の大きさがゾウ並みであることを考えると、周囲にある植物を手当たり次第に口に入れていたのでしょう。

周囲にある植物を手当たり次第に口に入れていた

周囲にある植物を手当たり次第に口に入れていた

成長の謎と種の分類

トリケラトプスは、成長に伴って角とフリルの形を大きく変化させました。
生まれたばかりの個体は角が短く直線的でしたが、若い個体は目の上の角が後方に大きく反り曲がり、成長するにつれて前方を向くようになります。

フリルと角の形状に大きな個体差が見られることから、約400万年の間に16種が誕生したという説がありましたが、現在では、”Triceratops horridus”と”Triceratops prorsus”の2種のみが有効種として認められています。
古い地層からは主に鼻の角が短い”T. horridus”が見つかり、新しい地層からは鼻の角が長い”T. prorsus”が見つかることから、単系統進化(アナジェネシス)の過程で姿を変えていったのではないかという説が有力視されています。

謎の同属説「トロサウルス」

トロサウルスは、トリケラトプスが記載された2年後に発見された角竜で、その生息時期や特徴が似ていることから、長年近縁種とされてきました。

トロサウルス

トロサウルス

両者の最大の違いは、トロサウルスのフリルに開いた穴の有無でした。

2009年、古生物学者ジョン・スキャネラは「トロサウルスは、トリケラトプスの成熟した個体である」という説を提唱しました。
さらに2010年には、有名な古生物学者ジャック・ホーナーとの共同論文で、フリルの穴は成熟に伴う体重増加の負担を軽減するための成長であると発表し、同属である可能性を示唆しました。

しかし、この説には多くの反論が寄せられました。
若いトロサウルスの化石や、高齢にもかかわらずフリルに穴が開いていないトリケラトプスの化石が発見されたのです。
また、フリルの骨の構造や、フリルの縁を飾る小さな骨(小鱗状骨)の数も両者で明確に異なることが指摘されました。
これらの証拠により、現在ではトロサウルスとトリケラトプスは、近縁ではあるものの、明確に異なる独立した属であるという科学的な結論が出ています。

世紀の発見:「決闘恐竜」の奇跡と身体構造

2006年、ティラノサウルスとトリケラトプスが、互いに絡み合ったまま死んだ「決闘恐竜(Dueling Dinosaurs)」と呼ばれる奇跡的な化石が発見されました。
トリケラトプスの腰にはティラノサウルスの折れた歯が突き刺さり、ティラノサウルスの指の骨は折れていました。
これは、両者が激しく争った末に、共に命を落としたことを示す、他に類を見ない状況証拠です。

さらに驚くべきことに、このトリケラトプスには、広範囲にわたる皮膚の印象化石が残っていました。
その皮膚は、大きな六角形のウロコに覆われ、中心には円錐状の突起があったことが判明しました。
これは、トリケラトプスの生きていた頃の姿を詳細に私たちに教えてくれる貴重な標本です。

トリケラトプスは、重い頭部を支えるために、前足に体重の多くを預けていたと考えられています。
前足は親指から中指までの3本が発達し、互いに支え合うことで強い構造を成していました。
後肢は前肢に比べて接地面積が少なく、体重を預けるには適していなかったことが分かります。

トリケラトプスの強さと繁栄の背景には、まだ解き明かされていない多くの謎が隠されています。
これからも新しい発見によって、その姿は更新されていくことでしょう。

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