ティラノサウルス Tyrannosaurus
名前の由来
暴君トカゲ
科名
ティラノサウルス科
分類
双弓亜綱、竜盤類、獣脚類
生息地(発見地)
アメリカ、カナダ
時代
7000万~6600万年前(白亜紀後期)
全長
約12m
体重
約4~7トン
食性
肉食
Jurassic
Park / World シリーズ登場恐竜
ジュラシック・パーク における活躍
パークの目玉として登場し、パークが無事にオープンしていれば愛されるべき存在となるはずの恐竜でした。
1989年にイスラ・ヌブラル島に移送され、物語の時点(1993年)では、島の北東部に広がる「T-REX パドック」にて、生きたヤギを餌としながら飼育されていました。
物語中盤、パークがシステムダウンに陥ったことにより、電流の切れた高圧電線を噛み切って脱走。
たまたま檻の前で立ち往生していたアラン・グラント博士一行が乗るツアー用の車、ランドクルーザーに襲いかかります。
ランドクルーザー04号車に閉じ込められたティムとレックスを助けるために囮となった数学者のイアン・マルコムに重傷を負わせると、そのまま近くの公衆トイレに隠れていた弁護士のドナルド・ジェナーロを発見。彼に頭からかぶりついて殺害します。
その後、引っ繰り返したランドクルーザー04号車を、中に閉じ込められていたティムごと崖から突き落としました。
晴れて自由の身になってからはパーク内部を好き放題に徘徊します。
マルコムを回収したサトラーとマルドゥーンのジープ04号車を執拗に追いかけます。
現実世界のティラノサウルスの走行速度は一般に時速20~30km程度とされることが多いですが、本作では時速50km以上で走るジープに易々と追いつき、話題となりました。
2020年に公式Twitterで公開されたT-REXのデータでは時速51kmで走行可能とされており、『ジュラシック・パーク』シリーズにおけるティラノサウルスの走行速度は、第一作を踏襲し続けていると見られます。
翌日には、倒れた木の陰に隠れていたグラント達の前で、草原を走るガリミムスを捕食するなど、やりたい限りを尽くしました。
物語の終盤、パークエントランスにて2頭のヴェロキラプトルに追い詰められ、絶体絶命となったグラント一行の前に音もなく出現。
そのうち1頭に襲いかかったことで、図らずもグラント達を救う結果となりました。
その直後、もう1頭のヴェロキラプトル「ビッグ・ワン」に飛びかかられて負傷しながらも、すぐさま食らいつき返し、近くにあったティラノサウルスの骨格標本に叩きつけて勝利の雄叫びを上げました。ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク における活躍
『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』には、イスラ・ソルナ島に生息していたティラノサウルスの親子(雄、雌、幼体)計3頭が登場します。
原作小説と同様の家族構成で、それぞれ「バック」(雄)、「ドゥ」(雌)、「ジュニア」(幼体)という愛称がつけられています。
彼らは、前作『ジュラシック・パーク』に登場したイスラ・ヌブラル島の個体とは何ら関係のない、別個体です。
本作では前作に比べてT-REXの登場シーンが大幅に増加し、主人公のイアン・マルコム博士たちを幾度となく窮地に陥れました。
しかし、彼らは劇中で最も人間の行動によって運命を翻弄された恐竜でもありました。
物語の序盤、親を誘き寄せるための策略として、まずジュニアが人間によって負傷させられてしまいます。
その後、バックとジュニアはインジェン社のハンターチームによって捕獲され、貨物船「S.S.ベンチャー号」でアメリカ本土サンディエゴへと輸送されることになりました。
貨物船がサンディエゴの港に到着した際、乗組員が全員死亡しているという惨状が発覚し、制御を失った船は桟橋に激突しました。
ブリッジの操舵手は、手首だけを残して何者かに捕食された無残な状態でした。
麻酔で眠らされ、鉄格子で封じられていたはずのバックは、何者かによってコンテナ内部で解き放たれていました。
その後、警備員の一人が誤って輸送船の貨物室の扉を開けてしまったため、バックはサンディエゴ市街へと脱走。
街で混乱を引き起こし、恐竜ハンターたちの寝込みを襲い、街に住んでいた若者(脚本家)を食い殺すなど、前作のT-REXを彷彿とさせるパニックを引き起こしました。
最終的に、イアン・マルコム博士たちがジュニアをおとりにしてバックを船へと誘導し、最後は再び麻酔によって鎮静させられ、親子はイスラ・ソルナ島へと返されることになりました。ジュラシック・パークIII における活躍
イスラ・ソルナ島に生息していた個体であり、公式には『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』に登場した個体(ジュニアなど)とは別個体とされています。
特徴として、本作のティラノサウルスは成長途中の若いオスであり、前作の成体と比較するとやや小柄で、体色が薄い点が挙げられます。
劇中では、食事をしていたところをアラン・グラント博士の一行と遭遇。
彼らを密林で追いかけますが、その先で本作の新たな看板恐竜であるスピノサウルスと鉢合わせし、二大恐竜による戦闘が勃発します。
戦闘序盤こそ、ティラノサウルスがスピノサウルスを押しているかのように見えました。
しかし、わずかな隙を突かれて首筋を強靭な顎で噛まれ、最終的にスピノサウルスの強力な両腕によって頸椎を折られて敗北、死亡してしまいます。
この展開は、有り体に言えば、スピノサウルスの強さを際立たせるための「噛ませ犬」としての登場でした。
この作品におけるティラノサウルスの出番は、約90分の尺の中でわずか90秒をもってすべて終了となります。
シリーズの象徴であったティラノサウルスの衝撃的な敗北は、従来のファンの一部から烈火のごとく怒りを買いました。
しかし、後にこの登場個体はまだ成熟しきっていない若年層(亜成体)であったという設定が明かされ、この衝撃的な展開に対するファンの怒りを多少なだめることに成功したと言われています。
現在、「スピノサウルスは魚食が主であり、大型の恐竜と陸上で争うには不向きな体型であった」という説が有力です。
しかし、この映画が製作・公開された当時は、スピノサウルスがティラノサウルスに匹敵する、あるいはそれ以上の強力な陸上ハンターであるという説が有力であった背景も、この戦闘シーンに大きく影響していたと考えられます。
なお、この戦闘の後、スピノサウルスに捕食されたティラノサウルスのものと思われる排泄物が、劇中で意外な形で重要な役割を果たすことになります。ジュラシック・ワールド における活躍
『ジュラシック・ワールド』を代表する、最も有名な大型肉食恐竜。
本作に登場する個体は、第1作『ジュラシック・パーク』に登場した雌のティラノサウルス・レックスと同一個体であり、ファンからは「レクシィ」の愛称で知られています。
首には、1作目終盤のヴェロキラプトルとの戦いで付けられた傷跡がはっきりと残っています。
かつてジュラシック・パークで飼育されていたレクシィは、パーク崩壊から数十年の時が流れても、野生化して生きながらえていました。
1988年生まれで、ジュラシック・ワールド建設に前後してホスキンス率いる部隊に捕獲され、現在はパークの目玉アトラクション「ティラノサウルス・レックス・キングダム」にて、唯一のティラノサウルスとして飼育されていました。
予告編や本編序盤では、「ティラノサウルスがヤギを食べるショー」のアトラクションとして姿を見せます。
しかし、映画の主軸がオーウェンとラプトル4姉妹、そしてインドミナス・レックスの脱走に移るため、彼女の出番は一旦終了します。
物語も終盤を迎えたその時、ついにファンの待ち望んだ瞬間が訪れます。
インドミナス・レックスの脅威に対し、クレアが「歯の数が多いほど強い」と悟り、レクシィを「切り札」として飼育エリアから解放。
レクシィは、かつての敵役(の骨)を豪快に吹き飛ばし、インドミナス・レックスの前へと立ちふさがります。
新旧最強生物の対決が幕を開け、レクシィは序盤こそ圧倒的な咬合力と馬力でインドミナスを圧倒します。
しかし、戦闘が進むにつれ体力を消耗し、知能に勝り強大な前肢を持つインドミナスに劣勢を強いられ、絶体絶命の窮地に陥ります。
しかし、そこにヴェロキラプトルの「ブルー」が乱入してインドミナスを攻撃したことで、形勢は逆転。
ブルーの加勢により体勢を立て直したレクシィは反撃に転じ、インドミナスを湖エリアの縁へと追い詰めました。
最終的にインドミナスは、湖から飛び出してきたモササウルスによって捕食され、戦いは終わります。
レクシィは、目の前にいたブルーに視線を送り、襲うことなく静かにその場を去って行きました。
島が恐竜の王国となった後は、廃墟と化したパークを見渡しながら、再び自由を取り戻したことへの歓喜と、人間たちへの警告を込めて、空に向かって咆哮(雄叫び)を上げていました。
なお、フィル・ティペットが描いた第1作の絵コンテ段階では「ロベルタ(Roberta)」と名付けられていました。
公式サイトによれば、歯の数は50〜60本とされています。ジュラシック・ワールド/炎の王国 における活躍
イスラ・ヌブラル島の「女王」であり、パーク最大の肉食恐竜です。
巨大な頭、強力な顎、凶暴な性格、そして小さな手が特徴で、本作においても物語の重要な「顔」として描かれています。
本作に登場するのは、第1作『ジュラシック・パーク』および前作(第4作)『ジュラシック・ワールド』に登場した雌と同一個体です。
パーク崩壊後もイスラ・ヌブラル島で生き残り、島の生態系の頂点に君臨していました。
ファンからは「レクシィ」の愛称で親しまれています。(なお、第1作製作時の絵コンテには「ロベルタ」との記載がありますが、この設定が現在も継承されているかは不明です。)
彼女は縄張りに入った者を容赦なく攻撃する性格であり、パークから自然界に解き放たれ、彼女の怒りを買った多くの肉食恐竜を再絶滅に追いやっています。
本作で最初に全体像を現した恐竜でもあります。
人間の存在を嫌っており、ラグーンに沈んだインドミナス・レックスの遺骨を回収するためにロックウッド財団が派遣した傭兵部隊を襲撃しました。
この時、傭兵たちに死者は出なかったものの、追走劇の結果としてラグーンのゲート開閉システムを阻害してしまい、モササウルスの脱走をもたらす原因となりました。
その後、火山噴火が迫る島で、オーウェン一行に襲いかかっていたカルノタウルスを闇討ちで一撃ノックダウンし、結果的に彼らの命を救うことになります。
しかし、噴火から逃げる最中に傭兵隊によって麻酔で捕獲され、檻に入れられてアメリカ本土の「ロックウッド・エステート」へと運び出されました。
屋敷の地下では好物のヤギを与えられ、美味しそうに頬張る姿が描かれています。(どうやら人肉は好みではないようです)。
物語の終盤、メイジーの手によって他の恐竜たちと共に解放されると、今作の事件の元凶であるイーライ・ミルズをその強力な顎で捕食しました。
その際、おこぼれに預かろうと近づいてきたカルノタウルスを頭突きで撃退し、因縁深いインドミナスの骨を踏み砕くと、森の奥へと消えていきました。
ラストシーンでは、どこかのサファリパークの檻を破壊して侵入。
オスのライオンと対峙し、互いに咆哮を上げ合うという、新旧の王者が並び立つ象徴的な姿が描かれています。ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 における活躍
本作のメイン恐竜にして、第1作・第4作・第5作に登場したシリーズの絶対的な「顔」である雌のティラノサウルス。
ファンからは親しみを込めて「レクシィ」の愛称で呼ばれています。
1988年生まれの34歳という高齢個体であり、恐らく地球最後の雌のティラノサウルスです。
非常に知能が高く理性を持ち合わせており、かつて『ジュラシック・ワールド』でのインドミナス戦でブルー(ヴェロキラプトル)に助けられた記憶があるのか、ブルーと一緒にいたオーウェンたちを認識し、気に入らない人間以外には基本的に危害を加えない姿が描かれています。
本作のプロローグ(先史時代の光景)では、レクシィの遺伝的な祖先とも言えるティラノサウルスが登場します。
体に毛のような羽毛が生えた姿で描かれたこのオリジナル個体は、当時のギガノトサウルスとの一騎打ちに敗れて命を落としており、現代に蘇ったクローンにおいても、力関係はギガノトサウルスの方が上であることが示唆されています。
前作の事件後、シエラネバダ山脈の森に潜んでいたところ、ドライブインシアターの会場に迷い込み、合衆国魚類野生生物局によって捕獲されます。
その後、イタリアのバイオシン本社がある保護区「バイオシン・サンクチュアリ」へと移送され、他の恐竜たちと共に放し飼いにされていました。
劇中ではサンクチュアリのセコイアの森に生息していましたが、祖先からの因縁の相手であるギガノトサウルスと鹿を巡って対峙。
しかし、パワー負けしてしまい、たまらず退散を余儀なくされました。
その後、燃えた巨大イナゴによって引き起こされた森林火災から逃れるため、バイオシン・バレー(ドーナツ型の施設の中央広場)に避難します。
そこで再びギガノトサウルスと対峙。
「ここで会ったが100年目」と言わんばかりに決戦の火蓋が切られました。
レクシィは度々勝負を仕掛けますが、ことごとく返り討ちに遭い、今回も力負けして遂には殺されてしまったかに見えました。
しかし、ケイラの機転により、ギガノトサウルスが偶然近くにいたテリジノサウルスと戦うように誘導されます。
テリジノサウルスが応戦している隙にレクシィも復活。
ギガノトサウルスの気がそれている隙を突いて首元に噛みつき、最後はテリジノサウルスの長い爪にギガノトサウルスの首を押し込んで貫かせ、因縁の相手を撃破しました。
戦いの後、レクシィはテリジノサウルスと共に勝利の雄叫びを上げました。
物語の結末では、バレーの外で、かつてのイスラ・ソルナ島の支配者である『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』に登場した2頭のティラノサウルスと対面(遭遇)します。
緑色の個体が雄の「バック」、茶色の個体が雌の「ドゥ」であり、レクシィが同種の仲間と巡り会ったシーンをもって、彼女の出番は終了しました。















































解説
ティラノサウルスは、中生代を通して最も有名で、最も恐ろしい大型肉食恐竜の代名詞と言えます。
白亜紀末期(約7,000万年前〜6,600万年前)の北アメリカに生息し、体長は11mから最大13m、体重は4,500〜8,000kgにも達しました。
その強大な姿から「暴君トカゲ(Tyrannosaurus rex)」という名がつけられ、同時代のカルカロドントサウルスやギガノトサウルスと並び、史上最大の陸生肉食動物の座を争いました。
史上最大の陸生肉食動物
最初に化石が発見されてから約100年、ティラノサウルスの生態については現在も研究が続けられています。
新しい化石の発見や分析技術の進歩により、その姿や生態に関する私たちのイメージは日々塗り替えられています。
謎多き生態:ハンターか、腐肉食者か?
長年にわたり、ティラノサウルスは獲物を追いかけて狩りをするハンターだったのか、それとも死肉を漁るスカベンジャー(腐肉食)だったのか、という激しい論争が続いてきました。
その巨体では速く走ることは難しいという説が有力ですが、骨格や筋肉の量から、車よりは遅いものの、最大で時速20km程度は出せたのではないかと推測されています。
これに対し、「この程度の速度ではトリケラトプスやエドモントサウルスに追いつけない」という反論もあり、短い距離なら時速40kmは出せたのではないかという説もあります。
獲物を威嚇しているティラノサウルス
しかし、多くの学者は、ティラノサウルスが現代の肉食動物のように、狩りも腐肉食も両方こなす「日和見主義者」だったと考えています。
死骸漁りだけでは、あれほどの巨体を維持することは困難であり、その巨体を支えるために食べる肉の量は相当なもので、一度に230kgもの肉を平らげたと言われています。
桁違いの咬合力と破壊的な食性
ティラノサウルスの強靭な顎と鋭く大きな歯にかかった獲物は、まず逃れることはできなかったでしょう。
発掘された化石を分析したところ、その咬合力は最大で5トンにも及び、これは人の男性の平均的な噛む力(261ニュートン)と比較すると、まさに桁違いの強さです。
ティラノサウルスの噛む力は35,000〜57,000ニュートンだったと予測されています。
強力なあごと、鋭い牙をもっていた。
この圧倒的な力は、獲物の骨まで噛み砕くことを可能にしました。
実際に、細かく砕かれた骨が混じったティラノサウルスの糞(化石)や、獲物であったトリケラトプスやエドモントサウルスの骨に残された噛み跡が、その強力な顎の威力を物語っています。
トリケラトプスやエドモントサウルスが獲物だった
噛まれた獲物は、ひどい傷を負ってショック死するか、大量出血によって死んでしまいました。
身体構造と最新の知見:外見の常識が覆される
ティラノサウルスの特徴は、体長の1割以上を占める約1.5mの巨大な頭部と、最も長いものでは30cmに達する鋭い歯です。
歯茎から出ている部分だけで14cmに達する歯もあり、その縁には「セレーション(鋸歯状)」と呼ばれるステーキナイフのようなギザギザが付いており、肉を簡単に引き裂くことができました。
ほとんどの肉食恐竜の歯が薄いのに対し、ティラノサウルスは骨まで貫くことができ、歯が折れても新しい歯が生えてくる仕組みも備わっていました。
一方で、巨大な頭部と対照的なのが、極端に短い前肢です。
指は2本しかありませんでした。
腕は短く、指は2本しかなかった。
この前肢は短すぎて、もう片方の前肢に触れることすらできませんでしたが、ある程度の力が備わっており、休息時に立ち上がる際の支えになったり、獲物の動きを封じる役目を果たしていたと考えられています。
2016年に開催された「超肉食恐竜T.Rex展」では、片方の手で200kgほどを持ち上げる力があった可能性が紹介されました。
強靭なもも、細いすねと足首が特徴の後肢は、足の速い生物特有の構造で、特に若い個体は足が速かったと考えられています。
以前はゴジラのようにしっぽを引きずったような姿勢で描かれることもありましたが、実際は頭を前に突き出し、長い尾を真っ直ぐ後ろにのばしてバランスをとった、ほぼ水平な姿勢で歩行していました。
ほぼ水平な姿勢で歩行していた
視覚も非常に優れており、両目が前向きについていたため、人間のように立体視が可能でした。
これにより、獲物までの距離や速度を正確に把握するのに適していました。
頭骨の研究からも、その脳は視覚が発達していたことが分かっています。
獲物に目を傷つけられないよう、眼窩は狭く上下に仕切られた鍵穴状になっていました。
羽毛と顔のイメージ:科学的論争の最前線
「ティラノサウルスに羽毛はあったのか」という論争は、未だに結論が出ていません。
近縁の小型獣脚類や、8m級の大型獣脚類(ユウティラヌス)から羽毛の痕跡が見つかっていることから、体温調節が難しい幼体には羽毛があったという説があります。
羽毛が生えたティラノサウルス
この説では、体が小さい頃は体温を保つために羽毛に覆われていたが、成長すると熱を逃がすために羽毛がなくなったと考えられていました。
しかし、2017年にはウロコで覆われていたとする論文も提出されました。
さらに、保存状態の良い「決闘恐竜(Dueling Dinosaurs)」の化石からは、足の裏などが爬虫類のようなウロコで覆われていたことが直接的に証明されています。
また近年、その獰猛な顔つきのイメージを覆す、「歯を覆う唇があった」という説が提唱され、大きな話題となっています。
2023年に発表された研究によると、ティラノサウルスの歯のエナメル質は薄く、ワニのように歯が剥き出しの状態では乾燥して傷んでしまったはずだと指摘。
むしろ、現生のオオトカゲのように、薄いウロコ状の唇で歯を覆い、その潤いを保っていた可能性が高いと結論付けています。
成長、寿命、そして社会性:意外な側面
恐竜の年齢は、化石の断面にある成長線を調べることで推定されます。
ティラノサウルスの寿命はおよそ30歳と推定されています。
卵から生まれたばかりの頃は全長わずか60cm、体重2kgしかありませんでした。
しかし、2歳になる頃には60%の個体が死亡していたと考えられており、非常に高い幼体死亡率だったことがわかります。
生き残った個体は、14〜18歳の成長期に1日あたり2.1kg、4年間で3,000kgも体重が増加したとされています。
また、化石に残された跡から、30歳に近づくと多くの個体がケガをしたり、関節の病気にかかっていたことも分かっています。
ティラノサウルスが単独で行動していたのか、それとも群れで狩りをしていたのかも長年議論の的です。
複数のティラノサウルス類が一緒に死んだ「ボーンベッド」がカナダやアメリカで発見されており、群れで行動していた強力な証拠とされています。
ティラノサウルスも、経験豊富な大人がリーダーとなり、若者たちに狩りの方法を教える、オオカミのような高度な社会を築いていたのかもしれません。
共食いをしていた可能性も、化石に残された噛み跡から推測されています。
特に、生きている間に噛まれた可能性を示す痕跡が発見されており、これは共食いが日常的に行われていたことを示唆します。
2021年の論文によると、ティラノサウルスの生息密度は半径6kmに1頭と推測され、当時の北アメリカ全体には同時に約2万頭が生息していたと考えられています。
約200万~300万年の間に、合計25億頭が存在したという計算結果も発表され、その繁栄ぶりを物語っています。
新種の発見と学名の変遷
長い間、ティラノサウルス属は「レックス(rex)」という単一の種だと考えられてきたため、「ティラノサウルス・レックス」やその略称である「T-REX」が広く浸透しています。
しかし、2022年には骨格の頑丈さや歯の形状の違いから、ティラノサウルス属がレックス (Tyrannosaurus rex)、レジーナ (Tyrannosaurus regina)、インペラトル (Tyrannosaurus imperator)の3種に分かれるのではないかという説が提唱されました。
この説は多くの反論を呼びましたが、ティラノサウルスの中に多様な個体差があったことを示す、興味深い議論を巻き起こしました。
そして2024年には、アメリカ・ニューメキシコ州の地層から発見された化石に基づき、「ティラノサウルス・マクラエンシス(Tyrannosaurus mcraeensis)」という新種が正式に記載され、大きな話題となりました。
この新種は、ティラノサウルス・レックスよりも約600万~700万年も早く出現したとみられており、ティラノサウルスの進化の謎を解き明かす上で非常に重要な発見とされています。
貴重な化石標本:「スー」と「決闘恐竜」
ティラノサウルスの化石はこれまでに数十体見つかっていますが、完全なものはひとつもないとされています。
しかし、アメリカ・シカゴのフィールド博物館には、史上最も高価な恐竜の骨格標本として知られる「スー」が展示されています。
1997年のオークションで約9億円という高値で落札された「スー」は、ティラノサウルスの姿を現代に伝える貴重な資料です。
また、トリケラトプスと絡み合ったまま化石になった「決闘恐竜(Dueling Dinosaurs)」の標本は、骨格の完全性がほぼ100%という驚異的な保存状態を誇ります。
この化石は、長年議論されてきた「ナノティラヌス」という小型のティラノサウルス類が、実はティラノサウルスの若者だったのではないかという論争に決着をつける可能性があるとして、現在も研究が続けられています。