ティラノサウルス Tyrannosaurus

名前の由来

暴君トカゲ

科名

ティラノサウルス科

分類

双弓亜綱、竜盤類、獣脚類

生息地(発見地)

アメリカ、カナダ

時代

7000万~6600万年前(白亜紀後期)

全長

約12m

体重

約4~7トン

食性

肉食

解説

ティラノサウルスは、中生代を通して最も有名で、最も恐ろしい大型肉食恐竜の代名詞と言えます。
白亜紀末期(約7,000万年前〜6,600万年前)の北アメリカに生息し、体長は11mから最大13m、体重は4,500〜8,000kgにも達しました。
その強大な姿から「暴君トカゲ(Tyrannosaurus rex)」という名がつけられ、同時代のカルカロドントサウルスギガノトサウルスと並び、史上最大の陸生肉食動物の座を争いました。

史上最大の陸生肉食動物

史上最大の陸生肉食動物

最初に化石が発見されてから約100年、ティラノサウルスの生態については現在も研究が続けられています。
新しい化石の発見や分析技術の進歩により、その姿や生態に関する私たちのイメージは日々塗り替えられています。

謎多き生態:ハンターか、腐肉食者か?

長年にわたり、ティラノサウルスは獲物を追いかけて狩りをするハンターだったのか、それとも死肉を漁るスカベンジャー(腐肉食)だったのか、という激しい論争が続いてきました。
その巨体では速く走ることは難しいという説が有力ですが、骨格や筋肉の量から、車よりは遅いものの、最大で時速20km程度は出せたのではないかと推測されています。
これに対し、「この程度の速度ではトリケラトプスエドモントサウルスに追いつけない」という反論もあり、短い距離なら時速40kmは出せたのではないかという説もあります。

獲物を威嚇しているティラノサウルス

獲物を威嚇しているティラノサウルス

しかし、多くの学者は、ティラノサウルスが現代の肉食動物のように、狩りも腐肉食も両方こなす「日和見主義者」だったと考えています。
死骸漁りだけでは、あれほどの巨体を維持することは困難であり、その巨体を支えるために食べる肉の量は相当なもので、一度に230kgもの肉を平らげたと言われています。

桁違いの咬合力と破壊的な食性

ティラノサウルスの強靭な顎と鋭く大きな歯にかかった獲物は、まず逃れることはできなかったでしょう。
発掘された化石を分析したところ、その咬合力は最大で5トンにも及び、これは人の男性の平均的な噛む力(261ニュートン)と比較すると、まさに桁違いの強さです。
ティラノサウルスの噛む力は35,000〜57,000ニュートンだったと予測されています。

強力なあごと、鋭い牙をもっていた。

強力なあごと、鋭い牙をもっていた。

この圧倒的な力は、獲物の骨まで噛み砕くことを可能にしました。
実際に、細かく砕かれた骨が混じったティラノサウルスの糞(化石)や、獲物であったトリケラトプスエドモントサウルスの骨に残された噛み跡が、その強力な顎の威力を物語っています。

トリケラトプスやエドモントサウルスが獲物だった

トリケラトプスやエドモントサウルスが獲物だった

噛まれた獲物は、ひどい傷を負ってショック死するか、大量出血によって死んでしまいました。

身体構造と最新の知見:外見の常識が覆される

ティラノサウルスの特徴は、体長の1割以上を占める約1.5mの巨大な頭部と、最も長いものでは30cmに達する鋭い歯です。
歯茎から出ている部分だけで14cmに達する歯もあり、その縁には「セレーション(鋸歯状)」と呼ばれるステーキナイフのようなギザギザが付いており、肉を簡単に引き裂くことができました。
ほとんどの肉食恐竜の歯が薄いのに対し、ティラノサウルスは骨まで貫くことができ、歯が折れても新しい歯が生えてくる仕組みも備わっていました。

一方で、巨大な頭部と対照的なのが、極端に短い前肢です。
指は2本しかありませんでした。

腕は短く、指は2本しかなかった。

腕は短く、指は2本しかなかった。

この前肢は短すぎて、もう片方の前肢に触れることすらできませんでしたが、ある程度の力が備わっており、休息時に立ち上がる際の支えになったり、獲物の動きを封じる役目を果たしていたと考えられています。
2016年に開催された「超肉食恐竜T.Rex展」では、片方の手で200kgほどを持ち上げる力があった可能性が紹介されました。

強靭なもも、細いすねと足首が特徴の後肢は、足の速い生物特有の構造で、特に若い個体は足が速かったと考えられています。
以前はゴジラのようにしっぽを引きずったような姿勢で描かれることもありましたが、実際は頭を前に突き出し、長い尾を真っ直ぐ後ろにのばしてバランスをとった、ほぼ水平な姿勢で歩行していました。

ほぼ水平な姿勢で歩行していた

ほぼ水平な姿勢で歩行していた

視覚も非常に優れており、両目が前向きについていたため、人間のように立体視が可能でした。
これにより、獲物までの距離や速度を正確に把握するのに適していました。
頭骨の研究からも、その脳は視覚が発達していたことが分かっています。
獲物に目を傷つけられないよう、眼窩は狭く上下に仕切られた鍵穴状になっていました。

羽毛と顔のイメージ:科学的論争の最前線

「ティラノサウルスに羽毛はあったのか」という論争は、未だに結論が出ていません。
近縁の小型獣脚類や、8m級の大型獣脚類(ユウティラヌス)から羽毛の痕跡が見つかっていることから、体温調節が難しい幼体には羽毛があったという説があります。

羽毛が生えたティラノサウルス

羽毛が生えたティラノサウルス

この説では、体が小さい頃は体温を保つために羽毛に覆われていたが、成長すると熱を逃がすために羽毛がなくなったと考えられていました。
しかし、2017年にはウロコで覆われていたとする論文も提出されました。

さらに、保存状態の良い「決闘恐竜(Dueling Dinosaurs)」の化石からは、足の裏などが爬虫類のようなウロコで覆われていたことが直接的に証明されています。

また近年、その獰猛な顔つきのイメージを覆す、「歯を覆う唇があった」という説が提唱され、大きな話題となっています。
2023年に発表された研究によると、ティラノサウルスの歯のエナメル質は薄く、ワニのように歯が剥き出しの状態では乾燥して傷んでしまったはずだと指摘。
むしろ、現生のオオトカゲのように、薄いウロコ状の唇で歯を覆い、その潤いを保っていた可能性が高いと結論付けています。

成長、寿命、そして社会性:意外な側面

恐竜の年齢は、化石の断面にある成長線を調べることで推定されます。
ティラノサウルスの寿命はおよそ30歳と推定されています。
卵から生まれたばかりの頃は全長わずか60cm、体重2kgしかありませんでした。
しかし、2歳になる頃には60%の個体が死亡していたと考えられており、非常に高い幼体死亡率だったことがわかります。
生き残った個体は、14〜18歳の成長期に1日あたり2.1kg、4年間で3,000kgも体重が増加したとされています。
また、化石に残された跡から、30歳に近づくと多くの個体がケガをしたり、関節の病気にかかっていたことも分かっています。

ティラノサウルスが単独で行動していたのか、それとも群れで狩りをしていたのかも長年議論の的です。
複数のティラノサウルス類が一緒に死んだ「ボーンベッド」がカナダやアメリカで発見されており、群れで行動していた強力な証拠とされています。
ティラノサウルスも、経験豊富な大人がリーダーとなり、若者たちに狩りの方法を教える、オオカミのような高度な社会を築いていたのかもしれません。
共食いをしていた可能性も、化石に残された噛み跡から推測されています。
特に、生きている間に噛まれた可能性を示す痕跡が発見されており、これは共食いが日常的に行われていたことを示唆します。

2021年の論文によると、ティラノサウルスの生息密度は半径6kmに1頭と推測され、当時の北アメリカ全体には同時に約2万頭が生息していたと考えられています。
約200万~300万年の間に、合計25億頭が存在したという計算結果も発表され、その繁栄ぶりを物語っています。

新種の発見と学名の変遷

長い間、ティラノサウルス属は「レックス(rex)」という単一の種だと考えられてきたため、「ティラノサウルス・レックス」やその略称である「T-REX」が広く浸透しています。
しかし、2022年には骨格の頑丈さや歯の形状の違いから、ティラノサウルス属がレックス (Tyrannosaurus rex)、レジーナ (Tyrannosaurus regina)、インペラトル (Tyrannosaurus imperator)の3種に分かれるのではないかという説が提唱されました。
この説は多くの反論を呼びましたが、ティラノサウルスの中に多様な個体差があったことを示す、興味深い議論を巻き起こしました。

そして2024年には、アメリカ・ニューメキシコ州の地層から発見された化石に基づき、「ティラノサウルス・マクラエンシス(Tyrannosaurus mcraeensis)」という新種が正式に記載され、大きな話題となりました。
この新種は、ティラノサウルス・レックスよりも約600万~700万年も早く出現したとみられており、ティラノサウルスの進化の謎を解き明かす上で非常に重要な発見とされています。

貴重な化石標本:「スー」と「決闘恐竜」

ティラノサウルスの化石はこれまでに数十体見つかっていますが、完全なものはひとつもないとされています。
しかし、アメリカ・シカゴのフィールド博物館には、史上最も高価な恐竜の骨格標本として知られる「スー」が展示されています。
1997年のオークションで約9億円という高値で落札された「スー」は、ティラノサウルスの姿を現代に伝える貴重な資料です。

また、トリケラトプスと絡み合ったまま化石になった「決闘恐竜(Dueling Dinosaurs)」の標本は、骨格の完全性がほぼ100%という驚異的な保存状態を誇ります。
この化石は、長年議論されてきた「ナノティラヌス」という小型のティラノサウルス類が、実はティラノサウルスの若者だったのではないかという論争に決着をつける可能性があるとして、現在も研究が続けられています。

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