ディロフォサウルス Dilophosaurus

名前の由来

二つのトサカを持つトカゲ

科名

ディロフォサウルス科

分類

双弓亜綱、竜盤類、獣脚類

生息地(発見地)

アメリカ、中国

時代

約1億9000万年前(ジュラ紀前期)

全長

約5〜7m

体重

400kg

食性

肉食

解説

ディロフォサウルスは、ジュラ紀前期の北アメリカに生息していた中型の肉食恐竜です。
その名は「二つのトサカを持つトカゲ」を意味し、頭部にある2列の半月状のトサカに由来しています。
のちに繁栄するアロサウルスに比べれば小型でしたが、そのぶん体が軽く、当時の動物の中では最も速く走ることができたと考えられています。

当時の動物の中では最も速く走ることができた

当時の動物の中では最も速く走ることができた

映画とは異なる驚きの生態

映画『ジュラシック・パーク』では、毒を吐く恐竜として描かれましたが、そのような証拠は一切見つかっていません。

ディロフォサウルスの体長は5〜7mほどで、背丈は人間より少し高い程度ですが、ジュラ紀前期の肉食恐竜としては最大級の部類に入ります。
スリムな体つきとは裏腹に、口には鋭く薄い歯が並び、前肢には鋭い爪を持つ、典型的な獣脚類でした。
歯は軟らかい肉を切り裂くのに適しており、スカベンジャー(腐肉食)として死肉を漁っていた可能性も指摘されています。
また、上顎がフックのように曲がっていたため、動物の死体に頭を突っ込んで内臓などを食べる際、空間を確保する役割も果たしていたと考えられています。

謎に包まれたトサカの役割

ディロフォサウルスの代名詞である2つのトサカは、骨でできてはいるものの紙のように薄く、非常に壊れやすかったため、武器には不向きでした。

その役割については諸説あり、仲間同士のディスプレイや、他の種類の恐竜と識別する目印として使われていた説が有力です。
また、空気袋がついていたことがわかっており、これを膨らませて威嚇したり、仲間に信号を送ったりしていた可能性もあります。
強い日差しから目を守る「ひさし」の役割も果たしていたかもしれません。

謎に包まれたトサカの役割

謎に包まれたトサカの役割

広大な生息地と進化のヒント

ディロフォサウルスの化石は、アメリカのアリゾナ州で最初に発見された後、中国でも非常に似た化石が発見されました。
中国で発見された化石は、現在ではシノサウルスという別属に分類されていますが、この事実は、ディロフォサウルスが超大陸パンゲアの分裂が完了していなかった時代に、広い範囲に生息していたことを示しています。

また、イタリアなどでも足跡の化石が発見されており、彼らが世界中の広い範囲に生息していた可能性を示唆しています。

ジュラシック・パーク/ジュラシック・ワールド Jurassic
Park / World
シリーズ登場恐竜

  • ジュラシック・パーク における活躍

    『ジュラシック・パーク』シリーズにおいて、その独自の生態描写で観客に鮮烈な印象を残した恐竜です。
    デビュー作である本作では、実際の化石記録とは異なる、映画独自の解釈が大胆に加えられています。

    映画版ディロフォサウルスを最も象徴する特徴は、エリマキトカゲを彷彿とさせる開閉式のフリル(襟巻)です。
    威嚇の際にこのフリルを広げる姿は、観客に強い印象を与えました。
    しかし、このフリルに関しては、実際の化石からその存在を示す痕跡は一切発見されておらず、映画独自の創作です。
    この架空の生態は非常に有名になったため、後に続く他の作品においても、ディロフォサウルスやそれをモチーフとしたキャラクターにフリルがデザインされることが多くなりました。

    フリルと並んで著名な特徴が、「毒を吐く」という能力です。
    作中では「スピッター(毒吐き)」の異名をを持ち、口内の唾液腺から黒い粘液状の毒を分泌します。
    この毒は、蛇毒血清で早急に処置しなければ失明の可能性があるほど強力なものとして描かれ、デニス・ネドリーを襲撃するシーンでその恐ろしさが存分に発揮されていました。
    この「毒」という設定も、フリルと同様に実際の化石証拠が存在しない創作です。
    この設定が生まれた背景には、当時の古生物学における議論が関係しています。

    原作小説の執筆当時、ディロフォサウルスは「顎が貧弱で脆弱であり、どうやって獲物を捕らえていたか?」という議論が交わされていました。
    原作者のマイケル・クライトンは、この当時の謎を巧みに利用し、「顎の力が弱くても毒という補助があれば狩りができる」という仮説を発想し、ディロフォサウルスの生態を創作したのです。

    また、映画では体格も大幅に変更されています。
    劇中に登場する個体は2メートル程度とかなり小さく描かれており、幼体だったのではないかと言われることもあります。
    これは、ヴェロキラプトルが観客に恐怖を与えるために実物より大きく描かれたのとは全く逆の演出意図であり、ディロフォサウルスは映画独自の創作要素が非常に多い恐竜となりました。

    映画本編での登場時間は短かったものの、フリルを広げて毒を吐くという視覚的インパクトは絶大でした。
    それ以降の映画作品にはほとんど登場していないにも関わらず、『ジュラシック・パーク』で確立されたこのイメージは、様々なゲームやアニメなどのサブカルチャーにおけるディロフォサウルス像に決定的な影響を与え、そのイメージを定着させることになったのです。

  • ジュラシック・ワールド における活躍

    『ジュラシック・ワールド』では、生体ではなく間接的な形で登場します。
    パークの公式リストには含まれていませんが、イノベーションセンターに設置されているホログラフィック映像の恐竜リストの一つとして、その名前と姿が確認できます。
    また、アトラクション「ジャイロ・スフィア」の説明動画にも、解説役が本種の名前と特徴である「毒」について言及するシーンがあります(解説役はその毒が本物だと気づいた直後に倒れてしまいます)。

    ディロフォサウルスが最も大きな活躍を見せるのは、物語の終盤です。
    ヴェロキラプトルの「デルタ」に追い詰められたグレイが、機転を利かせてディロフォサウルスの立体映像(ホログラム)を作動させます。
    暗闇に浮かび上がったホログラムが威嚇する様子を見せたことで、デルタは一瞬混乱し、その隙に一行は難を逃れることができました。

    第1作『ジュラシック・パーク』に登場した恐竜の中で唯一、続編(『ロスト・ワールド』、『III』)に登場していなかったディロフォサウルス。
    そのフリルや毒といった生態描写はフィクション要素が非常に強く、恐竜研究が進んだ現在では二度と登場しないのではないか、と多くのファンに思われていました。

    そのため、ホログラムという形でのまさかの再登場は、当時の観客をあっと驚かせるのに十分なサプライズ演出となり、第1作へのオマージュとして強い印象を残しました。

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