スピノサウルス Spinosaurus

名前の由来

トゲのあるトカゲ

科名

スピノサウルス科

分類

双弓亜綱、竜盤類、獣脚類

生息地(発見地)

エジプト、チュニジア、モロッコ

時代

1億2500万~9900万年前(白亜紀前期~中期)

全長

約13〜15m

体重

約6~9トン

食性

肉食(魚など)

解説

スピノサウルスは、白亜紀後期のエジプトに生息していた大型肉食恐竜です。
その名は「トゲのあるトカゲ」を意味し、背中にある高さ最大2mにもなる帆のような巨大な突起が最大の特徴です。

背中にある帆のような突起が特徴

背中にある帆のような突起が特徴

体長は13m〜15mと推定されており、ティラノサウルスカルカロドントサウルスを上回る、史上最大の獣脚類の座を守り続けています。

数奇な歴史と失われた化石

スピノサウルスの化石は、今から約100年前の1915年にドイツ人の古生物学者エルンスト・シュトローマーによってエジプト西部で発見されました。
当時の恐竜としては変わった容姿とその大きさから、その名は広く知れ渡りました。
しかし、第二次世界大戦中の1944年4月24日、ドイツ・バイエルン州立古生物・地質博物館に所蔵されていた貴重な化石のほとんどが連合軍の空襲により焼失してしまいました。
世界にひとつしかなかった標本が破壊されたことで、スピノサウルスの全体像は再び謎に包まれてしまったのです。

その後、1996年頃にモロッコでスピノサウルスのものと見られる中頸椎が見つかったものの、良質な化石の発見は2013年まで途絶え、スピノサウルスは「謎の恐竜」と呼ばれることになりました。
近年では、モロッコから歯化石が大量に発掘されるようになり、スピノサウルスの歯は安価に入手できるほどになっています。

陸上から水中へ:常識を覆した新発見

かつてのスピノサウルスは、映画『ジュラシック・パークⅢ』で描かれたように陸上で2足歩行する捕食者だと考えられていました。
しかし、近年の相次ぐ発見により、その常識は大きく覆されました。
現在では、水中での生活に高度に適応した「水中追跡型捕食者」であったことが確実視されています。

この「水棲説」の根拠は、2014年以降、古生物学における最もホットな話題の一つとなっています。

水棲適応説の提唱(2014年)

シカゴ大学のニザール・イブラヒム博士らの研究チームが、モロッコで発見された新たな化石に基づき、スピノサウルスが著しく短い後肢や、水棲動物に近い骨密度を持つことを発表しました。
「主に水中で生活していた」という革命的な説を提唱しましたが、当時は推進力を生み出す尾の形状が不明であるなどの反論もありました。

パドル状の尾の発見(2020年)

その反論を覆したのが、2020年に発表された、尾の化石の発見です。
その尾は、他の獣脚類のような細長い形状ではなく、高さのある複数の神経棘が発達した、巨大な「パドル(櫂)」のような形状をしていました。
これは、尾を左右に振ることで水中を力強く進むための推進力を生み出していたことを示す、動かぬ証拠でした。
水中では、この尾を振ることで大きな推進力を生み出すことができたと考えられています。

水中で尾を振ることで推進力を生み出すことができた

水中で尾を振ることで推進力を生み出すことができた

ペンギンのような骨(2022年)

さらに2022年、研究チームは、スピノサウルスの骨の密度が、水中に潜るペンギンやカバ、ワニなどと非常によく似た、中まで緻密で重い骨であったことを示しました。
これは、浮力を抑えて水中に潜るための「重り」として機能していたことを意味します。
これらの発見により、スピノサウルスは単に水辺で魚を待つだけでなく、自ら水中を泳ぎ、獲物を追跡する「水中追跡型捕食者」であったという、新たな恐竜像が確立されたのです。

ワニに似た頭部とセンサー

頭部はワニのような形状をしており、大きさは約2mにも達しました。
これは獣脚類としては最大級です。
ワニに似た細長い吻部(ふんぶ)と、魚を捕らえるのに適した円錐形の歯は、彼らが魚食性であったことを示しています。
下あごの先から生えた一番長い歯は、上の歯と互いに噛み合っていて、現生のワニの歯のようでした。
また、吻部先端には、現生のワニにも見られるたくさんの穴があいており、濁った水中でも食物となる魚を感知するためのセンサーの役目を果たしていたと考えられています。

頭部はワニのような形状をしていた

頭部はワニのような形状をしていた

謎に包まれた「帆」の役割

スピノサウルスの最大の特徴である背中の帆のような部分は、背骨から伸びた骨で支えられており、高さが最大2mにもなる骨の列を皮膚と筋肉が覆うことで形成されていました。
しかし、この帆が何に使われていたのかは、現在でもはっきりとは解明されていません。

かつては、ステゴサウルスの背板と同じように、帆(棘突起)が体温調節の機能を果たしていたと考えられていましたが、詳細な調査でステゴサウルスに見られるような血管の跡が無かったことから、この説は否定されています。
また、エネルギーを蓄えるこぶだったという説もありましたが、そうすると背中が重くなってしまい、バランスをとるのが難しくなるため、これも否定されています。

現在では、「威嚇や異性へのアピールをするためのディスプレイ」説と、水中での体の安定性を保つ「垂直尾翼」のような役割を果たしていた、という説が最も有力視されています。
ただし、同時代の肉食恐竜カルカロドントサウルスに噛まれた部位がこの帆の部分であったという化石も見つかっており、それほど頑丈ではなかったのかもしれません。

生態と特徴

スピノサウルスは、陸上の肉食獣として、時には同郷のカルカロドントサウルスと獲物をめぐって争っていたこともあったようです。
その好戦的な性格は、同種の肉食獣に噛まれた骨の化石にも現れています。
しかし、その主食は魚であり、細長いあごは水に突っ込んで魚を獲るのに適していました。
実際に、3mもある魚の化石と一緒にスピノサウルスの化石が見つかったこともあります。

また、スピノサウルスの後肢は、他の大型獣脚類に比べて著しく短く、体重を後肢だけで支えるには不向きでした。
足には水かきがあった可能性もあり、3本の指には長いかぎ爪があり、魚をひっかけるのに適していました。
これらの発見により、スピノサウルスは陸上と水中を行き来する、特異な生態を持っていたと考えられています。

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