【最新研究】スピノサウルスの巨大な「帆」の機能とは?体温調節や水中移動の謎に迫る

これまで発見された恐竜の中で、最も個性的で獣脚類の常識をいくつも書き換えてきた「スピノサウルス」。
細長い頭骨やワニのような歯、水辺での生活に適応した体など特徴は尽きませんが、最も想像をかき立てるのは高さ約1.8mにも達する背中の巨大な「帆」です。
白亜紀中期(約1億1200万~9300万年前)の北アフリカに生息し、全長15~18mに達したとされる史上最大級の肉食恐竜は、なぜこれほど派手な構造を進化させたのでしょうか。
本記事では、生体力学モデリングなどの最新研究から明らかになりつつある、スピノサウルスの帆の真の機能(そして向いていなかった機能)について詳しく解説します。
「体温調節(ラジエーター)」説はなぜ否定されたのか?
恐竜の背中の帆に関して、古くから信じられてきた仮説の一つが「体温調節を補助し、熱を吸収または放出していた」というものです。
これは約3億年前の単弓類「ディメトロドン」からの類推に基づいています。
しかし、2016年に学術誌『Geological Magazine』に掲載された論文により、この仮説は覆されました。
血管の痕跡が少ない
帆を構成する神経棘は高密度に骨化しており、血管の痕跡がほとんど見られませんでした。
血流の不足
体表での熱交換に依存する動物は表皮の下に大量の血流を備えますが、スピノサウルスの化石にその特徴はありませんでした。
ラジエーターやヒートポンプとして機能するには血管が密集していることが必須であるため、帆が純粋な体温調節器官だったという説は現在では否定されています。
最も有力な解釈:「ディスプレイ(装飾)」としての役割
これまでのところ、帆の機能として最も有力視されているのが、他の恐竜に対する視覚的シグナル、すなわち「装飾形質」であったという説です。
今日でも、鳥の派手な羽色、シカの巨大な角、トカゲの喉のひだ(デュラップ)など、目立つ視覚的構造は広く見られます。
これらは通常、性淘汰や社会的シグナル伝達のために進化します。
異性へのアピールとライバルへの威圧
陸上にいるときも水中を歩いているときも遠くから視認できるため、配偶相手に魅力を伝えたり、ライバルの力量を測ったりするのに役立ちました。
負傷リスクの回避
自身の優位性を誇示することで、直接的な闘争にコストをかけることなく決着をつける「儀式的闘争」に用いられた可能性があります。
帆のような構造は、オスとメスの外見が顕著に異なる種や、複雑な社会行動を示す種において大きく発達すると論じられています。
水中での「かじ」?半水生ライフスタイルと流体力学
スピノサウルスの謎を解くには、帆だけでなく体全体を見る必要があります。
2014年の『Science』の論文では、彼らが純陸生ではなく、水辺や水中で生活する「半水生」の捕食者であったと主張されました。
半水生を示す化石の形質
密度の高い骨
現生のペンギンのように浮力制御を補助。
水かきやパドル状の足
ぬかるんだ地面や浅瀬の移動に特化。
高さがあり柔軟な尾
左右にくねらせる推進運動に適応。
細長い吻(ふん)
魚の捕食に最適。
これらの形質から、帆には装飾だけでなく「流体力学的機能」もあったのではないかと考えられています。
突進時の姿勢制御(2021年の研究)
2021年(学術誌『Life』)の論文では、スピノサウルスの帆を船の垂下竜骨や「バショウカジキの背びれ」と比較しました。
河川や湖沼の浅瀬で魚に向かって突進する際、ローリング(横揺れ)やピッチング(縦揺れ)を軽減し、バランスを保つのに役立っていたと主張しています。
遊泳時の抗力と歩行の安定化(2022年の研究)
一方で、2022年(学術誌『eLife』)の論文では、生体力学モデルを用いた分析から「クジラや海生爬虫類のような高い遊泳能力はなかった」と示唆されました。
帆全体が水面下にあるとむしろ抗力が生じ、遊泳効率が下がるためです。
しかし、流体力学的機能が限定的だったとしても、水に出入りする際や、水中歩行で狩りをして急旋回する際の「安定性の確保」には役立った可能性が高いとされています。
結論:進化が生み出した「唯一無二の適応」
現在の研究者たちは、スピノサウルスの帆の存在意義は「ただ一つの機能に還元できるわけではない」という見方でおおむね合意しています。
- 配偶者やライバルへの「装飾(視覚的シグナル)」
- 浅瀬での狩りや移動を助ける「安定化(流体力学的機能)」
これらの複数の相補的な役割を果たすことで、白亜紀において河川や湖沼周辺を支配する唯一無二の大型捕食者となることができました。
現代の生体力学やコンピューターモデリングによって、進化が「装飾」や「水生適応」といったカテゴリーを超越して形態と機能を統合したプロセスが、今後さらに解き明かされていくでしょう。















