マラアプニサウルス Maraapunisaurus

名前の由来

南ユト族の言葉で「巨大な」を意味する"マラアプニ"に由来

科名

レッバキサウルス科

分類

双弓亜綱、竜盤類、竜脚形類

生息地(発見地)

アメリカ

時代

約1億5000万年前(ジュラ紀後期)

全長

約30〜32m

体重

約70トン

食性

植物食

解説

マラアプニサウルスは、後期ジュラ紀(約1億5000万年前)の北アメリカ大陸、特にモリソン層から知られる竜脚形類の恐竜です。
この恐竜は、しばしば世界最大の恐竜標本の一つに数えられ、その存在は古生物学界における伝説とも、大きな論争の種ともなっています。
なぜなら、その存在を証明する唯一の証拠である巨大な胴椎の化石が、発見後まもなく失われてしまったからです。

現在、「マラアプニサウルス・フラギリムス」という名前で知られるこの恐竜は、かつてアンフィコエリアス属に含まれ、「アンフィコエリアス・フラギリムス」と呼ばれていました。

失われた巨人の伝説:1.5mの椎骨発見と消失のミステリー

マラアプニサウルスの物語は、19世紀後半の「化石戦争」の最中に始まります。

驚異的な発見と記載

1877年、著名な古生物学者エドワード・ドリンカー・コープに雇われた化石ハンター、オラメル・ウィリアム・ルーカスは、コロラド州キャノンシティ近郊で、驚くほど巨大な椎骨の一部を発見しました。
この化石(部分的な神経棘と神経弓)は保存状態が悪かったものの、そのサイズは驚異的で、保存されていた部分の高さは約1.5m、元の高さは2.7mほどだった可能性があるとコープは記録しています。

コープは1878年にこれをホロタイプ(基準標本)としてアンフィコエリアス属の新種、「アンフィコエリアス・フラギリムス」と記載しました。
種小名は、神経弓が非常に薄い構造であったことから「とても壊れやすい」という意味で名付けられました。

化石の消失とその影響

しかし、この歴史的な発見を証明する唯一の標本である巨大な椎骨は、その後行方不明となってしまいました。
現在、その存在を裏付けるのは、コープが残した図面とフィールドノートのみです。

消失の理由

古生物学者ケネス・カーペンターは、当時の保存技術の未熟さや化石が含まれていた泥岩の脆さから、コープが図面を描いた後、すぐに崩れて廃棄されてしまった可能性が高いと推測しています。

再発見の試み

地上浸透型レーダーによる調査も行われましたが、骨を発見することはできませんでした。
現地の地形調査では、化石を含む地層が著しく浸食されており、ルーカスが発見した時にはすでに骨格の大部分が失われていた可能性が高いことが示唆されています。

この標本の消失により、マラアプニサウルスの存在とその驚異的なサイズは、長らく古生物学における伝説、あるいは疑問視される存在として扱われてきました。

サイズ推定をめぐる大論争:60m級か、30m級か?

失われた標本しか存在しないため、マラアプニサウルスの正確なサイズ推定は非常に困難であり、研究者の間で大きな論争が続いています。
すべての推定値は、コープの曖昧な原記載と図面に基づいており、致命的な誤字脱字が含まれている可能性も指摘されています。

巨大説:全長60m、体重150tのスーパーサイズ

コープは原記載で、他の竜脚形類との比較から、マラアプニサウルスの大腿骨の高さを3.6mと推定しました。
これを基に、後の研究者たちは近縁種との比較(スケーリング)によって全体像を推定してきました。

ポールによる推定(1994年)

近縁と考えられていたディプロドクスを参考に、全長40〜60mと推定。

カーペンターによる初期推定(2006年)

同じくディプロドクスを参考に、全長を58mと推定。
体重は122.4tに達した可能性も示唆しました。
これは、シロナガスクジラ(最重量記録173t)に迫る巨大さです。
この推定が正しければ、マラアプニサウルスは地球上に存在した生物の中でぶっちぎりのトップであり、初代ゴジラよりも大きいことになります。

縮小説:全長30m級への下方修正

しかし、これらの巨大な推定値に対しては、生物学的な妥当性や、コープの記録の信頼性に対する疑問も呈されてきました。

ウッドルフとフォスターによる批判(2015年)

コープの記載した数値が他のどの巨大竜脚形類とも比較にならないほど大きいこと、19世紀の古生物学者は化石の大きさに注意を払わなかった傾向があること、そして測定値の誤植(メートルとミリメートルの混同など)の可能性を指摘。
超巨大なマラアプニサウルスは「非常に実在性の低い」生物であると結論付けました。

カーペンターによる再分類と再推定(2018年)

カーペンター自身も、コープの図面を再検討した結果、本種がディプロドクス類ではなく、レッバキサウルス類に属する可能性が高いと結論付けました。
レッバキサウルス類のリマイサウルスを基に再計算した結果、マラアプニサウルスの全長は30.3m〜32m、腰の高さは約7.95mと、以前の推定値の約半分に下方修正されました。
それでもなお、スーパーサウルスなどの最大級のディプロドクス類に匹敵する巨大さです。

現在では、この全長30m級という推定値が、より現実的なものとして受け入れられつつあります。

分類の変遷と古生物学上の意義

マラアプニサウルスの分類上の位置づけも、そのサイズと同様に大きな変遷を遂げてきました。

ディプロドクス科からレッバキサウルス科へ

長らくディプロドクス科に分類されてきましたが、カーペンターによる2018年の再評価で、椎骨の形態がレッバキサウルス類に酷似していることから、レッバキサウルス科の基盤的メンバーである可能性が高いとされました。
もしこれが正しければ、マラアプニサウルスは既知の中で最古かつ唯一北米で発見されたレッバキサウルス類ということになり、このグループの起源と分布に関する従来の説を覆す可能性があります。

新属「マラアプニサウルス」の誕生

カーペンターは、この分類変更に伴い、本種をアンフィコエリアス属から独立させ、新しい属名「マラアプニサウルス」を与えました。
この名は、南ユト族の言葉で「巨大な」を意味する”マラアプニ”に由来します。
失われた標本に基づいて新属を設立することは珍しいですが、国際動物命名規約(ICZN)では認められています。

伝説は真実か?今後の展望

マラアプニサウルスの物語は、古生物学における発見の興奮、記録の不確かさ、そして科学的探求の絶え間ない進歩を象徴しています。
失われた巨大な骨は、私たちに想像を絶する生物がかつて地球上に存在した可能性を示唆する一方で、その真の姿は未だ謎に包まれたままです。

コープのライバルであったオスニエル・チャールズ・マーシュでさえ、コープの主張に疑問を呈さなかった事実は、骨の巨大さが真実であった可能性を物語っています。
しかし、決定的な証拠がない以上、マラアプニサウルスが史上最大の恐竜であったかどうかは、今後の新たな化石の発見を待つしかありません。

いずれにせよ、マラアプニサウルスの伝説は、恐竜時代の壮大さと、失われた世界への尽きない探求心を私たちに与え続けてくれるでしょう。

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