アヌログナトゥス Anurognathus
名前の由来
尾を持たない顎
科名
アヌログナトゥス科
分類
双弓亜綱、翼竜目
生息地(発見地)
ドイツ
時代
ジュラ紀後期
全長
約0.5m(翼幅)
体重
約40g
食性
昆虫食
Jurassic
Park / World シリーズ登場恐竜
ジュラシック・ワールド/復活の大地 における活躍
本作に登場するアヌログナトゥスのデザインは、近年の古生物学の学説とは大きく異なる特徴を持っています。
体表
本来想定される毛(羽毛やピクノファイバー)はなく、緑色の鱗肌をしています。
尻尾
実際のアヌログナトゥスは尾が短いのが特徴ですが、劇中の個体は尻尾が長く描かれています。
顔つき
全体的にカエルのような姿としてデザインされています。
なぜこのようなデザインになったのでしょうか。
監督や製作陣はインタビューにて、「羽毛の生えた恐竜はデカいニワトリみたいで全然怖く見えない」とコメントしており、この「怖さ重視」の方針が、アヌログナトゥスのデザインにも色濃く反映されたと考えられます。
劇中に登場する個体のスペックは以下の通り、非常に小柄です。
・翼開長: 0.5m(20inches)
・体重: 0.4kg
その生態はコウモリなどに近く、基本的には島の背景を飛んでいるだけの存在です。
人間に対して攻撃的ではなく、特に害のない環境生物として描かれています。
派手なアクションはありませんが、物語の進行において重要な役割を一つ担いました。
劇中、遺跡を探索していたダンカン達に対し、図らずも隠し通路の存在を気づかせるきっかけを作ったのが彼らです。
薄暗い遺跡内で彼らが動いたことにより、一行は道を見つけることができました。





















解説
中生代ジュラ紀後期のドイツ。
始祖鳥が生息していたことでも知られるこの時代の空には、現在のコウモリを思わせるような、奇妙で小さな翼竜が飛び回っていました。
その名は「アヌログナトゥス」。
ドイツ有数の化石産地であるゾルンフォーフェンから発見されたこの翼竜は、進化の過程における不思議な特徴を備えています。
発見と名前の由来:「尾を持たない顎」
保存状態の良い化石と日本との縁
アヌログナトゥスの化石は、始祖鳥と同時期の地層から発見されました。
特筆すべきは、発見された化石の状態の良さです。
非常に小柄な生物でありながら、種を特定するのに十分な特徴が保存されているほど良好な状態で残っていました。
なお、発見者はドイツの学者ですが、日本とも深い関係にある人物とされています。
名前の意味
アヌログナトゥスという属名は、その身体的特徴を端的に表しており、「尾を持たない顎」という意味を持っています。
その名の通り、彼らの最大の特徴は、当時の同系統の翼竜には見られない「短い尾」と「独特な頭部」にありました。
分類上のパラドックス:進化した尾と原始的な手首
アヌログナトゥスの分類学的な位置づけは非常にユニークであり、進化の過渡期を感じさせる特徴を併せ持っています。
ランフォリンクス類なのに「尾が短い」?
彼らは分類上、「ランフォリンクス類」に含まれます。
このグループには映画『ジュラシック・パーク』シリーズでおなじみの「ディモルフォドン」なども属しており、通常は「長い尾」と「その先端にある菱形のヒレ」を持っているのが特徴です。
しかし、アヌログナトゥスはこのグループに属していながら、尾がやけに短いのです。
その尾の特徴は、現生の鳥類に見られる尾骨や、遥か後に登場するプテラノドンなどの進化した翼竜(プテロダクティルス類)に似ていました。
手首は「原始的」なまま
一見すると進化した翼竜のように見えますが、完全に進化しきったわけではありません。
彼らの身体には、短い手根骨(手首の骨)など、ランフォリンクス類などの初期の翼竜特有の特徴もしっかりと保持されていました。
つまりアヌログナトゥスは、アヌログナトゥス科を代表する翼竜として、原始的な特徴と進化したような特徴が同居する特異な存在だったのです。
コウモリのような姿と身体的特徴
アヌログナトゥスは非常に小型の翼竜でした。
その姿は、現在のコウモリのようであったと言われています。
サイズ
体長はわずか9cm、翼開長(翼を広げた長さ)は0.5mほど。
頭部
頭骨は背が高く、前後に短い形状。
鼻先は丸みを帯びています。
歯
口内には小さく鋭く尖った歯が直立して生えており、獲物を逃さない構造になっていました。
翼
体長に比べて翼は細長く発達しており、優れた滑空能力を持っていました。
空中のハンターとしての生態
ヨタカのように昆虫を捕食
このような身体的特徴から、アヌログナトゥスは昆虫食であったと考えられています。
彼らの狩りのスタイルは、現在の鳥類である「ヨタカ(夜鷹)」に例えられます。
優れた飛行能力と機動性を活かして、素早く空を飛び回りながら、同じく飛んでいる昆虫を次々と捕食していたのです。
スピードよりも「機動性」
彼らの飛行能力は、最高速度こそあまり出せないものの、「機動性」に特化していたようです。
細長い翼による滑空能力に加え、短い尾を持つ体は、空中で小回りが利きます。
この能力は、逃げ惑う蝶などの昆虫を空中で捕食する際に大いに役立ったことでしょう。
ジュラ紀のドイツの空において、アヌログナトゥスはその愛らしい小さな体と「尾のない」特異な姿で、生態系の一翼を担っていたのです。