スティギモロク Stygimoloch
名前の由来
三途の川の悪魔
科名
パキケファロサウルス科
分類
双弓亜綱、鳥盤類、周飾頭類
生息地(発見地)
アメリカ
時代
約6600万年前(白亜紀後期)
全長
約3m
体重
約80〜90kg
食性
植物食
Jurassic
Park / World シリーズ登場恐竜
ジュラシック・ワールド/炎の王国 における活躍
本作で記念すべきスクリーンデビュー(初登場)を果たしました。
トゲのある硬い頭部が特徴で、劇中では「スティギー」の愛称で親しまれています。
前作『ジュラシック・ワールド』に少しだけ登場した先輩格のパキケファロサウルス(通称パッキー)の代役を見事に務め上げました。
なお、現在の古生物学の学説では「スティギモロクはパキケファロサウルスの亜成体(同一種)」とする説が有力ですが、本作ではあえて別種として描かれています。
劇中では、イスラ・ヌブラル島から少なくとも5頭が捕獲されており、そのうち3頭がアメリカ本土の「ロックウッド・エステート」へと運び出されました。
物語の中盤、イーライ・ミルズ達によって監禁されたオーウェンとクレアの隣の牢屋(檻)に収容されていた1頭が、思いもよらぬ大活躍を見せます。
その自慢の石頭に目を付けたオーウェンによる誘導(口笛による挑発)に乗せられ、レンガ造りの壁を頭突きで破壊。
結果として、2人が脱走する決定的な機会を作りました(無意識とはいえ、彼らを逃がすことに成功しました)。
さらにその後、オーウェンの誘導によってエレベーターに乗り込み、同郷の仲間たちが売りさばかれている悪しき恐竜オークション会場になだれ込みます。
会場内を大暴れして混乱に陥れ、警備員たちをなぎ倒したことで、生物兵器インドラプトルの落札・搬出を未然に防ぐことに成功しました。
多くの恐竜たちの未来を守り、とにかく誰かを助け出すことに特化した、まさに救いのヒーローのような描写がなされています。
役目を終えた後は、無事に外の世界へと脱出しました。
ただし、その知能に関しては少し愛嬌があるようです。
オーウェンの挑発に簡単に乗ってがむしゃらに頭突きを繰り返したり、オークション会場では勢い余って鉄骨に頭をぶつけてよろけたりするなど、「オツムはあまりよくない」というコミカルな一面も描かれています。























解説
スティギモロクは、白亜紀後期の北アメリカ大陸に生息していた堅頭竜類の一種です。
その禍々しくも魅力的な名前と、頭部に備わったユニークな装飾により、恐竜ファンから高い人気を誇っています。
しかし、近年の研究により、この恐竜は独立した種ではなく、ある有名な恐竜の「若き日の姿」ではないかという衝撃的な説が浮上しており、古生物学界で大きな議論を呼んでいます。
「三途の川の悪魔」その衝撃的な名前の由来
スティギモロクという学名は、その外見と発見場所に由来する非常にドラマチックな意味を持っています。
モロクの角
頭部の周りに生えた長く精巧な角が、古代中東で神と称えられ、後に悪魔へと貶められた魔神「モロク」を彷彿とさせたこと。
地獄の川
化石が発掘された地層が、アメリカのモンタナ州やサウスダコタ州に広がる「ヘルクリーク(地獄の川)累層」であったこと。
この二つの要素を、ギリシャ神話に登場する冥界の川(三途の川)である「ステュクス」にかけ合わせ、「三途の川の悪魔(ステュクスのモロク)」という意味のスティギモロクと名付けられました。
ちなみに、同じヘルクリーク層からは「アケロラプトル(アケローン川の泥棒)」という、これまた冥界の川にちなんだ名前の恐竜も発見されています。
トゲだらけの頭部と身体的特徴
スティギモロクは全長約3mと、堅頭竜としては中型からやや小柄な部類に入ります。
同じ時代、同じ地域には、堅頭竜類の代名詞であるパキケファロサウルスや、平らな頭を持つドラコレックスも生息していました。
独特なドームと鋭い角
スティギモロクの最大の特徴は、なんといってもその頭骨です。
パキケファロサウルスの頭骨が分厚く盛り上がった完全なドーム状であるのに対し、スティギモロクの頭頂部は比較的小さく、側面にかけてやや平らで梨型をしたドームを持っていました。
「厚みがなくフラットな形状をしており、真ん中がコブのようにポコっと膨らんでいた」とも表現されます。
そして、ドームの側面から後頭部にかけては、アイスピックのような鋭い角が冠のように多数備わっていました。
これらの角は近縁種に比べても長く精巧で、全長10cm以上に達するものもありました。
角の用途
この派手な角や頭頂部のふくらみが何に使われていたのかについては、いくつかの説があります。
ディスプレイ説
派手な見た目で異性を惹きつけたり、ライバルを威嚇したりするための飾りだったとする説。
成長した彼らは、その外見で「自分は縄張りを防衛できる力がある」と、同種の仲間を威圧したに違いありません。
武器説
鹿の角のように互いに突き合わせて戦ったり、頭突きした後の追い打ちとして側頭部のトゲで攻撃を加えたりしたとする説。
もし、相手に向かって勢いよくタックルをぶちかまし、倒れたところにこのトゲで追撃していたとしたら、非常に獰猛でロマンあふれるハンターだったのかもしれません。
いずれにせよ、これら堅頭竜類の頭にあるドームやトゲは、成長につれてがっしりと発達していったと考えられています。
揺らぐアイデンティティ:パキケファロサウルスと同じ種なのか?
知名度の割に謎多き恐竜であるスティギモロクですが、現在、彼にはある一つの大きな「疑惑」がかけられています。
それは、「スティギモロクは、実はパキケファロサウルスと同じ種なのではないか?」という説です。
このスティギモロクとパキケファロサウルス、ドラコレックスという3種類の堅頭竜は実は同じ種類で、頭の形の違いは、性別や成長段階の違いによるものという説が有力視されているのです。
ジャック・ホーナー博士の成長段階説
この説を強く主張しているのは、映画『ジュラシック・パーク』のアラン・グラント博士のモデルとしても知られる著名な古生物学者、ジャック・ホーナー氏です。
彼は以前、「トリケラトプスとトロサウルスは同種であり、トロサウルスは成熟したトリケラトプスである」という説を発表し、世間を驚かせた人物でもあります。
2000年代以降の研究で、以下の点が注目されました。
幼体しかいない
発見されているスティギモロクとドラコレックスの化石は、すべて発育途中の幼体や亜成体のものであり、完全に成熟した大人の化石が見つかっていない。
成体しかいない
逆に、パキケファロサウルスの完全なドームを持つ化石は、成熟した成体のものばかりである。
共通する特徴
スティギモロクやドラコレックスの頭骨に見られる角の位置や形状が、パキケファロサウルスの頭骨に残るコブや突起の位置と一致している。
これらの事実から、ホーナー氏は2007年頃に次のような成長プロセスの仮説を提唱しました。
子供(ドラコレックス)
頭は平らで、角が長く鋭い。
若者(スティギモロク)
成長に伴い頭頂部が膨らみ始め、小さなドームができる。
角はまだ目立つ。
大人(パキケファロサウルス)
ドームが巨大化して完成する一方で、頭部周辺の角は吸収されて短くなり、コブ状になる。
つまり、これまで別種だと思われていた3つの恐竜は、実は一つの恐竜の成長段階(変態)の違いに過ぎないというのです。
もしこの説が正しければ、スティギモロクという種としての独自性は失われ、パキケファロサウルスの「亜成体(青年期)」の姿として統合されることになります。
結論:映画での活躍と今後の展望
現在、この「成長段階説」は多くの支持を集めつつありますが、完全に確定したわけではありません。
発見されている化石の数が少なく断片的なものが多いため、現段階では「成長している可能性があるから同一種」と断定するには至っていないのです。
一方で、エンターテインメントの世界ではスティギモロクの個性は健在です。
映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』などの創作作品では、パキケファロサウルスとは明確に異なる種として登場し、その特徴的な角と頭突きで大活躍を見せています。
スティギモロクは独立した種なのか、それともパキケファロサウルスの若き日の姿なのか。
今後、より多くの化石が発見され、その実態が明らかになる中で、彼らがどのような形で図鑑に残るのか(あるいは統合されて名前が消えてしまうのか)、その行方に注目が集まっています。
たとえ分類が変わったとしても、その「悪魔」の名を持つ恐竜の魅力的な姿が色褪せることはないでしょう。