コンプソグナトゥス Compsognathus
名前の由来
繊細な顎
科名
コンプソグナトゥス科
分類
双弓亜綱、竜盤類、獣脚類
生息地(発見地)
ドイツ、フランス
時代
約1億5100万~1億4500万年前(ジュラ紀後期)
全長
約1〜1.4m
体重
約2〜3kg
食性
肉食
Jurassic
Park / World シリーズ登場恐竜
ジュラシック・パーク における活躍
『ジュラシック・パーク』の劇中には登場しません。
映画における最初期のインジェン・リスト(公式リスト)は13種までしか公開されておらず、本種を含めた残りの2種は長らく不明なままでした。
その存在が明らかになったのは、2018年に「Dinosaur Protection Group(DPG)」(恐竜保護団体)の公式サイトにて、イスラ・ヌブラル島の全種リストが初めて公開された時です。
このリストによって、コンプソグナトゥスもパークの恐竜の一種として設定上存在していたことが初めて明かされました。ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク における活躍
『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』において、観客に強烈なトラウマを与えた恐竜です。
彼らは、一見すると小さく愛らしい存在に見えますが、その実態はピラニアのように集団で獲物に襲いかかり、自分よりはるかに大きな生物すら捕食するという、凄まじく恐ろしい生態を持つ存在として描かれました。
映画の冒頭、イスラ・ソルナ島の海岸を訪れた旅行者家族の幼い娘、キャシーがコンプソグナトゥスに遭遇します。
最初は1羽だけが現れ、その小さな姿にキャシーも警戒することなく餌を与えようとします。
しかし、その1羽はすぐに仲間を呼び寄せ、群れとなったコンプソグナトゥスたちはキャシーに一斉に襲いかかり、重傷を負わせました。
このシーンは、「小さな恐竜」が持つ潜在的な恐ろしさを観客に強く印象付けました。ジュラシック・パークIII における活躍
前作『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』において、成人男性を集団で捕食するほどの凶暴な姿を見せたコンプソグナトゥス(通称コンピー)ですが、『ジュラシック・パークIII』における登場は非常に限定的です。
劇中の中盤、エリック・カービーたちが隠れ家としていたトレーラーが映るシーンで、その姿がほんのわずかに登場するのみに留まっています。ジュラシック・ワールド/炎の王国 における活躍
実は、彼らは第1作『ジュラシック・パーク』の時点で、イスラ・ソルナ島からの輸送船に紛れ込み、密航するかたちで25頭余りがすでにイスラ・ヌブラル島に上陸していたとされています。
ブラキオサウルスと同様、第1作の頃から独自の生態系を築き、野生で生きてきたと考えられます。
その後、イスラ・ソルナ島の全ての個体が正式にイスラ・ヌブラル島へ移送されたことも加わり、島内では凄まじい個体数へと繁殖していました。
劇中では、パーク崩壊後に無人化したメイン・ストリートの店舗内を徘徊している姿が確認できるほか、火山噴火による逃走劇の最中にも、生き残っていた群れが度々姿を見せています。
その後、そのうちの数匹(小さな群れ)がロックウッド財団に雇われたハンターたちによって捕獲され、アメリカ本土の「ロックウッド・エステート」へと移送されました。
物語の終盤、屋敷から脱走したコンプソグナトゥスたちは、イーライ・ミルズの最期のシーンにも立ち会っています。
ミルズがティラノサウルスに捕食される直前、彼らはいち早くその接近に気づいて逃げ出していました。
その後、ティラノサウルスによって食いちぎられ、カルノタウルスが落としたミルズの下半身(足)に群がりますが、ティラノサウルスの咆哮に驚き、散り散りに逃げ去っていく姿が描かれました。ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 における活躍
映画冒頭で流れる世界のニュース映像では、コンプソグナトゥスが現代の生態系や人間社会と衝突している様子が確認できます。
人間への脅威
短編『バトル・アット・ビッグ・ロック』の映像が引用され、幼児を襲う衝撃的な光景が流れます。
現代生物との競合
その一方で、チーターに襲われる光景も映し出されており、現代の捕食者に狩られる側になっている厳しい現実も描かれました。
本作におけるコンプソグナトゥスの登場シーンで最も衝撃的なのが、マルタ島の闇市場(ブラック・マーケット)での扱いです。
ここでは、なんと食用として捕らえられ密売されていました。
市場の屋台では、串に刺されたコンプソグナトゥスの丸焼きなどが売られており、恐竜が単なる脅威ではなく、資源や食材として消費されているグロテスクな側面が描写されています。
公式プロモーションサイト「Dinotracker」の情報によると、主にアメリカやヨーロッパにて数多くの目撃情報が寄せられています。
罠にかかる事故
小柄な体格ゆえか、誤って罠にかかってしまった個体の報告があります。
人間への危害
群れで行動する彼らは依然として危険な存在であり、油断した人々などに危害を加えているケースが多く報告されています。ジュラシック・ワールド/復活の大地 における活躍
本作に登場するコンプソグナトゥスの最大の特徴は、その体色です。
『ロスト・ワールド』やこれまでの『ジュラシック・ワールド』シリーズに登場した個体とは異なり、背面がオレンジ色や赤茶色をした個体群が登場します。
この明るい配色は、彼らが生息する環境への適応か、あるいは異なる遺伝的特徴を持つ別個体群であることを示唆しています。
劇中では、遺跡付近の水辺に群れで生息している様子が描かれました。
平和に過ごしていた彼らですが、そこへ予期せぬ珍客が空から降ってきます。
ケツァルコアトルスの巣から転落し、水中に落下したルーミス博士が、勢いよく水面から飛び出してきたのです。
静寂を破る突然の出来事に、臆病な性質のコンプソグナトゥスたちは驚き、蜘蛛の子を散らすように一斉に逃走してしまいました。
人間を襲うことなく逃げ去る姿は、彼らの警戒心の強さを表しています。































解説
恐竜というと、多くの人々はティラノサウルスのような巨大な肉食恐竜や、ブラキオサウルスのような首の長い植物食恐竜を思い浮かべます。
しかし、実際には、恐竜の世界は驚くほど多様であり、大きな種ばかりでなく、小さな種も数多く存在しました。
その中でも、コンプソグナトゥスは、ジュラ紀後期(約1億5000万年前)のヨーロッパに生息していた、最も小さな恐竜の一つとして知られています。
その名は「繊細な顎」を意味し、その名の通り、非常に軽量で華奢な体つきをした肉食恐竜(獣脚類)でした。
発見と「ミッシングリンク」論争
コンプソグナトゥスの化石は、1859年にドイツのバイエルン州にあるゾルンホーフェン石灰岩採石場で発見されました。
この地層は、化石の保存状態が極めて良好であることで世界的に有名であり、コンプソグナトゥスの全身骨格も、ほぼ完全な状態で見つかりました。
始祖鳥との運命的な出会い
コンプソグナトゥスの発見が古生物学界に与えた衝撃は、その小ささだけではありませんでした。
彼らが発見されたのと同じ地層から、ほぼ同時期に「始祖鳥(アーケオプテリクス)」の化石が発見されたのです。
始祖鳥
始祖鳥は、恐竜のような鋭い歯と爪を持つ一方で、鳥類固有の羽毛を持つことから、「爬虫類と鳥類をつなぐミッシングリンク(失われた環)」としてセンセーションを巻き起こしました。
この二つの化石の発見により、トーマス・ハクスリーなどの科学者たちは、コンプソグナトゥスと始祖鳥の骨格が驚くほど酷似していることに気づきました。
この事実は、「鳥類は恐竜から進化した」という仮説を強力に後押しするものであり、コンプソグナトゥスは長年にわたり、鳥類の祖先に最も近い恐竜ではないかと考えられていました。
ニワトリサイズの俊敏なハンター
コンプソグナトゥスは、ジュラ紀に生息した恐竜の中で最も体の小さな種類の一つでした。
驚異的な小ささと速さ
その体長は最大でも1〜1.4m程度、体重はわずか2〜3kg(1歳児程度)しかありませんでした。
頭部の大きさは人の手のひらよりも小さい10cm程度で、体長の半分以上はムチのようにしなる長い尾が占めていました。
体長の半分以上はムチのようにしなる長い尾が占めていた
しかし、その小さな体は、高度に洗練された狩りのための武器でした。
ほっそりとした華奢な体つきと、発達した後肢を持ち、非常にすばしっこい恐竜であったことは疑いようがありません。
2007年の研究では、その走行速度は時速64kmものスピードに達した可能性があると推定されています(ただし、恐竜の走行速度については未だ議論が続いています)。
走行速度は時速64kmものスピードに達した可能性があると推定されている
体長のかなりの部分を占める長い尾は、高速で走る際に体のバランスを取るためのバランサーとして機能していました。
「繊細な顎」と小さな歯
コンプソグナトゥスの「繊細な顎」という名前は、その細長く軽い頭骨に由来します。
口の中には小さいながらも鋭い歯が無数に並んでいましたが、これらは獲物を取り押さえるのには適していたものの、大型獣脚類のように肉を切り裂いたり骨を砕いたりするような頑丈なものではありませんでした。
歯は小さく、獲物を取り押さえるのに適していた。
前肢の指の謎
発見された化石の手には2本の指しかなく、これは当初、彼らの特徴だと考えられていました。
しかし、その後の研究で、実際には3本目の指があったものが、化石化の過程で失われたか、あるいは非常に小さく退化していた可能性が指摘されています。
前肢は短かったものの、しっかりした作りで大きな爪があり、獲物を強力につかみとるために使われたと考えられています。
前肢には大きな爪があった
化石が語る食性:トカゲの丸飲み
その小さな体では、もちろん大型の草食恐竜を狩ることはできませんでした。
コンプソグナトゥスは、自身よりも小さい昆虫やトカゲを主食としていたと考えられています。
胃に残された最後の食事
この事実は、非常に保存状態の良い化石によって裏付けられています。
1859年に発見されたドイツの標本では、胃にあたる部分(腹部)に、生前最後の食事と思われるトカゲの骨格(後にバヴァリサウルスと命名)が丸ごと保存されているのが発見されました。
この事実は、彼らが俊敏な小動物を活発に狩っていたことを示す、決定的な証拠となっています。
羽毛の謎:なぜ痕跡が見つからないのか?
コンプソグナトゥスが始祖鳥と同時期・同地域に生息していたこと、そして近縁種から羽毛を生やした恐竜が多数発見されていることから、コンプソグナトゥスも始祖鳥と同様に羽毛で体が覆われていた可能性が強く指摘されています。
しかし、ゾルンホーフェン石灰岩は羽毛の痕跡すら保存できる極めて良好な環境であったにもかかわらず、コンプソグナトゥスの化石からは明確な羽毛の痕跡は見つかっていません。
羽毛説の根拠
中国で見つかったシノサウロプテリクス(コンプソグナトゥス科の近縁種)の化石には、はっきりとした羽毛のあとが残っていました。
このことから、コンプソグナトゥスにも羽毛があったはずだと考える研究者は多くいます。
反論(ウロコ説)
一方で、羽毛の痕跡が見つかっていない以上、現在のトカゲのような鱗(うろこ)に覆われた姿であったとする説も有力です。
この「羽毛の謎」は、コンプソグナトゥスに関する最大の論争点の一つであり、今後の研究が待たれます。
分類の変遷とティラノサウルスとの意外な関係
コンプソグナトゥスは、コエルロサウルス類という恐竜の仲間に分類されます。
このグループは、ジュラ紀にアロサウルスなどと同時代に栄え、やがてデイノニクスやヴェロキラプトル、さらにはティラノサウルス類へと進化していきました。
当初は鳥類の直接の祖先と考えられていましたが、現在の研究では、鳥類とは直接関係がなく、多くの肉食恐竜が所属するテタヌラ類に分類されています。
さらに、2023年に発表された論文では、コンプソグナトゥスがティラノサウルス上科に含まれるとする説も提唱されており、このニワトリサイズの俊敏なハンターが、後の時代の最強の恐竜ティラノサウルスの遠い親戚であった可能性が浮上しています。
コンプソグナトゥスは、その小さな体に恐竜の進化の大きな謎を秘めた、非常に重要な存在なのです。