デイノケイルス Deinocheirus

名前の由来

恐ろしい手

科名

デイノケイルス科

分類

双弓亜綱、竜盤類、獣脚類

生息地(発見地)

モンゴル

時代

約7000万年前(白亜紀後期)

全長

約11m

体重

約6.4トン

食性

雑食

解説

1965年、モンゴルのゴビ砂漠で、長さ2.4mにも及ぶ巨大な「2本の腕」だけの奇妙な化石が発見されました。

その異様に長く、約30cmのカギ爪を備えた腕から「デイノケイルス」と命名されましたが、その後の約50年間、古生物学における最大のミステリーとして「謎の恐竜」と呼ばれ続けることになります。
長年の沈黙を破って判明した真の姿と、奇妙でユニークな生態、そして化石泥棒からの劇的な奪還劇について詳しく解説します。

「超巨大肉食恐竜」という誤解と50年の空白

デイノケイルスの腕は、地球上の全動物の中でもテリジノサウルスに次ぐ2番目の長さを誇ります。

全長30mのバケモノ?

ティラノサウルス(全長13m)の腕が約1mであることを考えると、2.4mの腕を持つデイノケイルスは、単純計算で全長30mを超える「超巨大肉食恐竜」になってしまいます。
しかし現実的にそのような獣脚類が存在したとは考えにくく、正体は長年不明でした。

専門家の推測と当時の状況

現場での再調査では、タルボサウルスに食い荒らされた歯型の残る肋骨の一部しか見つかりませんでした。
カナダのフィリップ・カリー博士らが超巨大肉食恐竜説を支持する一方、日本の小林快次博士らは腕の構造から「ダチョウ恐竜の仲間」と推測していましたが、決定打がなく、知名度も低いままでした。

世紀の大発見と「化石泥棒」からの奪還劇

不遇の時代を経て、事態が急転したのは2006年〜2009年のことです。
韓国のイ・ユンナム博士率いる国際調査隊(カリー博士や小林博士ら)が、ついに「2体分のほぼ完全な胴体化石」を発見する大偉業を成し遂げました。

化石ハンターによる盗掘

ところが、高く売れる頭骨や手足の先だけが化石泥棒に切り取られ、アングラ市場へ持ち去られた後でした。

執念の追跡と返還

研究者たちは諦めずに行方を追い、2011年にヨーロッパのコレクターが所持していることを突き止めます。
2014年にモンゴルへ返還され、ついに全身骨格が明らかになりました。

判明した「奇妙すぎる本当の姿」

2014年に復元された姿は、人々の想像をはるかに超えるものでした。
ダチョウ恐竜でありながら全長10mを超え、最新の研究により全身が羽毛で覆われていたことも判明しています。

  • 歯が一本もない、幅広で平たい「アヒルのようなクチバシ」
  • 帆のように高く盛り上がった背中の骨(神経棘)
  • 異常に長い前肢と、大きく膨らんだ巨大な「太鼓腹」

雑食の「発酵室」と、恐ろしい手の真の使い道

獰猛な肉食恐竜と思われていたデイノケイルスですが、胃の中から魚の骨やうろこ、植物の種子や繊維が見つかり、雑食性であることが確定しました。

丸呑みして「胃石」ですり潰す

咀嚼できないため、クチバシで浅瀬の魚や水生植物、低木の葉をすくい取って「丸呑み」にしていました。
巨大な太鼓腹の中にある「発酵室」のような胃腸で、飲み込んだ小石(胃石)を使って時間をかけて消化吸収していました。
これは頭部を軽くし、巨大な腕と尻尾との重量バランスをとるための進化と推測されています。

「恐ろしい手」の役割

腕の動きは鈍く、狩りには不向きでした。
現在では、木の枝を引き寄せたり、強靭な爪で川底を掘り返して水生生物を探したりするのに使われていたと考えられています。
また、タルボサウルスなどの大型肉食恐竜から身を守る「防衛用の武器」としても役立ちました。

ドーナツ状に並べる卵と愛情深い子育て

繁殖形態についても、近似種の卵の化石から興味深い習性が分かっています。

彼らは、真ん中にスペースを空けた「ドーナツ状」に卵を並べて産卵していました。
これは親が卵を踏みつける事故を防ぐと同時に、中央のスペースに親が座り、羽毛で効率的に卵を温める(抱卵する)ための工夫でした。

まとめ

1970年の命名から約半世紀。
「腕だけの不気味なバケモノ」は、盗掘の危機を乗り越え、水辺でのんびりと食事をする「羽毛の生えた巨大なアヒル口の雑食恐竜」へと劇的な変貌を遂げました。

2019年の恐竜博などでその数奇な運命が紹介され、今や世界中で大人気の恐竜です。
化石の1ピースがいかに常識を覆すかを示す、古生物学の歴史に残る最もドラマチックな発見と言えるでしょう。

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