ナヌークサウルス Nanuqsaurus

名前の由来

ホッキョクグマ・トカゲ

科名

ティラノサウルス科

分類

双弓亜綱、竜盤類、獣脚類

生息地(発見地)

アメリカ

時代

約7000万年前(白亜紀後期)

全長

約6m

体重

約500kg〜1トン

食性

肉食

解説

約7000万年前の白亜紀後期、現在の北極圏にあたるアラスカ北部に生息していた肉食恐竜「ナヌークサウルス」。

私たちがよく知る巨大なティラノサウルス・レックスと非常に近い親戚でありながら、際立って小柄な体格を持っていたことで知られています。

「アラスカ産ゴルゴサウルス」からの脱却と命名

ナヌークサウルスの化石発見の歴史は、思いがけないものでした。

2006年、古生物学者トニー・フィオリロ氏らの発掘チームがアラスカの「プリンスクリーク層」で角竜の化石を探していた際、見慣れない頭蓋骨の破片を発見します。
当初、この化石は別のティラノサウルス類である「ゴルゴサウルス」のものだと考えられ、2014年以前のメディアでは「アラスカ産ゴルゴサウルス」として取り上げられることがありました。

しかし2014年、頭部にある独特な尾根状の張り出しなどを精査した結果、ティラノサウルス・レックスに極めて近い近縁種の新属新種と判明しました。

学名「ナヌークサウルス・ホグルンディ」の「ナヌーク」は、アラスカ先住民イヌピアックの言葉で「ホッキョクグマ」を意味します。
これは現在のホッキョクグマのように生態系の最上位に立つ捕食者であったことを示しており、「ホグルンディ」は慈善事業家フォレスト・ホグランド氏への献名です。

極夜と豊かな森が同居する白亜紀のアラスカ

ナヌークサウルスが生きていた古代の亜大陸「ララミディア」の一部(アラスカ北部)は、現在ほど極寒の氷雪地帯ではありませんでした。

シアトルのような気候

中生代としては寒冷でしたが、現在のワシントン州シアトルのような気候でした。
海岸沿いの平地には花が咲き乱れ、背の高いセコイアの森が生い茂っており、雪を頂く山の麓の谷でハドロサウルス科(カモノハシ竜)などを狩っていたと推測されています。

暗く長い冬の「極夜」

北極圏ならではの「極端な日照時間の変動」があり、冬には太陽が昇らない極夜が訪れます。
夏は獲物が爆発的に増える一方、冬は獲物が激減し、深刻な餌不足に陥る過酷な環境でした。

ベルクマンの法則と矛盾する「体格の謎」

ナヌークサウルスの最大の特徴は、そのサイズです。
近縁のティラノサウルス・レックスが全長約13mに達するのに対し、ナヌークサウルスは約6mと半分程度しかありません。

フィオリロ氏はこの小型化について、「暗く長い冬の餌不足により、巨大な体を維持するカロリーが摂取できなかったため」と推測しました。
しかし、これは生物学の一般的なルールである「ベルクマンの法則(寒冷な地域の恒温動物ほど、体温維持のために大型化する)」と真っ向から対立するものでした。

古生物学者マット・ラマンナ氏も「ルールに照らすと奇妙だ」と指摘しています。
実際、現代のホッキョクグマはクマ科最大であり、同時期のアラスカにいた小型獣脚類「トロオドン」も、温暖な地域の近縁種より2倍も大型化していました。
極地に棲むナヌークサウルスだけが小型であることは、長らく大きな謎とされてきました。

2023年の最新研究と「厚い羽毛のコート」

近年、この謎に新たな光が当てられました。

2023年に発表された研究では、これまでに発見されているナヌークサウルスの標本は、実は「14歳前後の亜成体(大人になりかけの若い個体)」だった可能性が指摘されたのです。
もしこの仮説が正しければ、十分に成長した成体は全長8mほど(ゴルゴサウルスと同等)に達していたことになり、必ずしも極端な小型種ではなかった可能性が浮上しています。

さらに、その外見も南方の近縁種とは異なっていたと考えられています。
寒冷地で生きる恒温動物として、寒さから身を守るために他の地域の仲間よりも厚く密な外皮(羽毛のコート)をまとっていた可能性が高いと推測されています。

冬には太陽が昇らない極夜が訪れる過酷なアラスカの地で、生態系の頂点捕食者としての地位を確立していたナヌークサウルス。
私たちが思い描く一般的なティラノサウルスのイメージとは異なる、雪山を背景にセコイアの森を忍び寄る「ホッキョクグマのような恐竜」の姿は、古代地球の多様性と生命のたくましさを強烈に物語っています。

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